監督のベトナム戦争従軍経験が反映されている戦争映画の傑作『プラトーン』の解説・考察をしていく。
1.作品概要
監督:オリバー・ストーン
脚本:オリバー・ストーン
製作:アーノルド・コベルソン
製作国:アメリカ
配給:オライオン・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザーズ
時間:120分
公開:1986年12月19日
出演:チャーリー・シーン、トム・ベリンジャー、ウィレム・デフォー、ケヴィン・ディロンほか
2.あらすじ
1967年。アメリカ人の青年クリスは、徴兵される若者たちの多くがマイノリティや貧困層であることに憤りを感じ、大学を中退して自らベトナム行きを志願する。しかし、最前線の小隊「プラトーン」に配属された彼を待ち受けていたのは、想像を遥かに超える悲惨な現実だった。(映画.comより引用)
3.主な受賞・選出
〈受賞〉
- 第59回アカデミー賞
作品、監督、音響、編集賞 - 第37回ベルリン国際映画祭
銀熊賞(監督賞) - 第44回ゴールデングローブ賞
作品、助演男優、監督賞 - 第41回英国アカデミー賞
監督、編集賞 - 第2回インデペンデント・スピリット賞
作品、監督、脚本、撮影賞 - 第11回日本アカデミー賞
外国作品賞 - 2019年アメリカ国立フィルム登録簿 新規登録
〈ノミネート〉
- 第59回アカデミー賞
助演男優、脚本、撮影賞 - 第44回ゴールデングローブ賞
脚本賞 - 第41回英国アカデミー賞
撮影賞 - 第2回インデペンデント・スピリット賞
主演男優賞
ほか多数
4.作品の見どころ・考察
監督自身の従軍経験
監督のオリバー・ストーンは大学中退後に実際にベトナム戦争に従軍しており、設定にそのまま反映されている。ベトナム戦争中に死傷率が最も高かった部隊の1つ、LRRP(特殊長距離偵察パトロール)という特殊部隊での経験が本作のベースとなっており、除隊後すぐの1969年に脚本を書き上げ、1976年ごろには草案を完成させていたという。
下積みを経て企画が進行するが、その間に『地獄の黙示録』『ディア・ハンター』といったベトナム戦争を題材とした映画は数多く制作・公開され、「なぜ今になってベトナム戦争なのか?」「80年代後半になって描く必要があるのか?」と論争を呼んだという。だが監督は「ベトナム戦争での経験を書くため、映画にするために生きてきた」と語るほど本作を製作することを自身の使命としており、強い想いが作品に反映されているかのようだ。
徹底したリアリティの追求
本作で、まず役者たちは退役軍人から14日間みっちりと訓練を受けたという。髪は短髪にし、食べ物は支給された缶詰のみで実際にジャングルの見張り監視をするなど本物さながらの過酷な訓練を経験し、訓練終了直後にロケでの撮影に挑まさせ心身ともに追い込んだ。
それにより役者たちの顔つきは精悍であるが、どこかくたびれた印象を受け、彼らを観た監督も「若い頃の自分を見た」と語っていることからも、リアルにかなり近づけることができたことが伺える。
さらに、泥水を飲みマラリアに罹患したり、マリファナで幻覚症状が現れたりと撮影中の過酷で、独特の空気感が画面越しにも伝わってくる。
また当時のアメリカはベトナムと国交がなかったためフィリピンで撮影が行われたが、独裁者フェルナンド・マルコスが国外逃亡した直後ということもあり軍が制圧していたという。そのため現地の混乱や道路を戦車が走るなど異様な状況を間近で体験したことが、作品のリアリティにも繋がったのではないかと思われる。
善悪の境界線の曖昧さ
米軍がベトナム市民に対して行った虐殺、略奪、強姦、放火など非人道的行為を克明に描き、米軍内での仲間割れや隠蔽行為など、戦争の”現実”を訴えかけてくる。これらの行為は到底許される行為ではないが、横行し日常化していくなかで、それらが正常であるとマヒしていき、倫理観や人格が失われていく戦争の恐ろしさを感じた。
そして、エリアスは瀕死のバーンズに銃を向ける。自身の正義や倫理観を自らの意思で覆し、深い業を背負ったまま帰還するラストも善悪の境界線が曖昧であることを強調し、拾った敵の銃というのも完璧な演出だ。
善のエリアス、悪のバーンズと配置し寓話的な物語にしているが、両者の善悪の対立や葛藤は監督自身の感情に思える。ラストで「死後も反目し続けるだろう」と語られるが、その後の世界情勢を予見したものであると同時に、監督自身のベトナム戦争との戦いに対してであることも明白で、自伝的な映画であり、決意表明のような映画でもあった。
5.個人的にマイナスだった点
凄惨な映像
現代の技術と比較すると直接的なもの、いわゆるグロ描写は控えめだが、思わず目を背けたくなる映像が多く、感情的に気分が悪くなるシーン(特に村を焼き払うシーン)が評価が分かれそうなため注意が必要だ。
6.総評
『ロサンゼルス・タイムズ』は「この作品と比べると過去の戦争映画は、遠くからクレーン・ショットで撮った作品に見えてくる。『プラトーン』は地上ゼロメートルで撮られた映画である。」としており、地上ゼロメートルつまり実際に戦地にいるかのようなリアリティであると評している。
この論評は的を射ており、監督が実際に見た光景、体験した地獄を映画に落とし込むことができた証左だろう。監督の実体験、徹底した作りこみ、そして後世に残さなければならないという執念が見事に融合し、高い完成度に繋がったのだろう。
7.こぼれ話
- ジャケットにもなっているウィレム・デフォーの有名なシーンは、1968年に実際に撮影された写真をもとにしている。