ゆうの孤独のシアター

映画レビューを中心に映画関連のブログを書いていきます(当サイトはアフィリエイト広告を利用しています)

『青いパパイヤの香り』映像美と心温まる人物描写が見事なトラン・アン・ユン監督のデビュー作

数々の賞にノミネートされたベトナム出身のトラン・アン・ユン監督の長編デビュー映画『青いパパイヤの香り』の解説・考察をしていく。

 

 

 

 

1.作品概要

監督:トラン・アン・ユン

脚本:トラン・アン・ユン

製作:アデリーヌ・ルカリエ、アラン・ロッカ

製作国:フランス、ベトナム

配給:デラ・コーポレーション

時間:104分

公開:1993年6月8日

出演:トライ・ヌー・イエン=ケー、リュ・マン・サン、グエン・アン・ホア、グエン・チー・タン・トゥラほか

 

2.あらすじ

1951年、ベトナム。10歳の少女ムイが、サイゴンで暮らす一家のもとへ奉公にやって来る。その家には、琵琶ばかり弾いて何もしない父と、布地屋を営む働き者の母、社会人の長男と2人の弟、そして祖母が暮らしていた。(映画.comより引用)

3.主な受賞・選出

  • 第66回アカデミー賞 外国語映画賞 ノミネート
  • 第46回カンヌ国際映画賞
    <受賞>
    カメラドール
    ユース賞
  • 第19回セザール賞 新人監督作品賞 ノミネート


4.作品の見どころ・考察

情感豊かな映像

全編通してゆったりとした流れで、情感豊かな映像に目を奪われる。

 

夏の虫の鳴き声、ベトナムの民族楽器、小鳥のさえずりなどの生活の音が心地よく響き、柔らかな陽の光と青葉の瑞々しさなども爽やかだ。

 

穏やかな日常とベトナムの自然美を温かみのある映像で楽しむことが出来る。

 

個性的な映像表現

 

冒頭、使用人としてやってきたムイが部屋に案内される際、セットを横移動ドリーで映し出し、本作はあくまで第三者視点の映画であることが強調される。

 

また、比喩・暗喩表現がかなり多いことも特徴的だ。

前半では白い種だったパパイヤが終盤ではパパイヤの種を摘んで花になる。直後のシーンではムイが懐妊していることが分かり、受胎の暗喩である事は明らか。

 

他にも、実からドロっと垂れる白い液、監視される虫のアップ、対のカエルなどが度々描かれ、愛や不倫、性描写などの暗喩が多い。

 

これら以外にも比喩が多く、どれが何の比喩か探しながら見るのも面白い。

 

奥様のムイへの愛

奉公元の奥様は幼き娘トーを病気で亡くしており、その姿をムイに重ねて育てていたのがよく分かる。

 

奉公に来てまもなくに母親のもとに帰省させたり、高価な壺を割った際も責めず、10年後の描写では大金持ちの子息に嫁がせてあげるなど、ムイへの愛は実の娘に与えるものと同様のものだった。

 

特に、ムイが寝言でお母さんと呟くのを見て涙を流して頭を撫でたり、料理をするムイの後ろ姿を優しい視線で見守る姿は、母親が幼い娘に向ける視線そのもので、ムイの成長にトーを重ね合わせて愛していたのが伝わり、その温かさに思わず涙がこぼれた。

5.個人的にマイナスだった点

唐突な展開

穏やかな日常のなかで旦那様が突如蒸発し、ここを起点に家族の不和や経済的危機も描かれるが強引さを感じた。


以前にも何度も蒸発しており、今回も宝石と有り金を持って蒸発するのだが、理由は明かされず日常を描く作風の中で、突如として現れる非日常的な演出は私は好みではなかった。


6.総評

多くの隠喩を用いて情感豊かに映し出す映像は美しい。
また、人物描写も柔らかく先述の奥様がムイに向ける視線やムイの淡い恋心の描き方は心温まる。

 

鑑賞後には作風同様に穏やかな優しい気持ちになれる、そんな味わい深さを持った作品だった。


7.こぼれ話

  • パパイヤは黄色く熟すと果実、熟す前の青い状態は野菜という変わった分類をされる。
  • 成人したトイ役のトライ・ヌー・イエン=ケーは後に同監督と結婚した。