ゆうの孤独のシアター

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『ウォール街』戦争映画の名手が描いた”血が流れない戦争”

実際のウォール街にも大きな影響を与え、投資銀行に入社するものや投資家になる者が急増したりと一大センセーションを巻き起こし、アメリカ国内では現在でも高い知名度を誇る『ウォール街』の解説・考察をしていく。

 

 

 

1.作品概要

監督:オリバー・ストーン

脚本:オリバー・ストーン、スタンリー・ワイザー

製作:エドワード・R・プレスマン

製作国:アメリカ

配給:20世紀フォックス

時間:128分

公開:1987年12月11日

出演:マイケル・ダグラス、チャーリー・シーン、ダリル・ハンナ、マーティン・シーンほか


2.あらすじ

一攫千金を夢見る若き証券マン、バド(C・シーン)は、業界のフィクサー的存在である大富豪ゲッコー(M・ダグラス)に取り入ろうと必死だった。父(M・シーン)の勤める航空会社の情報を流したことによって、その夢はかなえられ、バド自身も大金を手にするが……。(allcinemaより引用)

 

3.主な受賞・選出

  • 第60回アカデミー賞 主演男優賞(マイケル・ダグラス)
  • 第45回ゴールデングローブ賞 主演男優賞(マイケル・ダグラス)
  • 第12回日本アカデミー賞 外国作品賞ノミネート
  • 第8回ゴールデン・ラズベリー賞 ワースト助演女優賞(ダリル・ハンナ)


4.作品の見どころ・考察

ウォール街の熱気

冒頭、通勤ラッシュが映し出されるが、満員電車、街の雑踏、エレベーターの中など全ての場面がスーツ姿のビジネスマンたちで埋め尽くされており、息苦しさがひしひしと伝わってくる。

 

また、取引市場がまだデジタルに移行していない時代の作品のため、紙とペン、大声での会話、電話などアナログな方法でやり取りを行う姿も印象的で、異様なまでのエネルギーを発していると同時に、過酷な生存競争が繰り広げられているのを感じ取れる見事なオープニングだ。

 

当時の日本の勢い

撮影当時、日本はバブル景気の絶頂期ということもあり、日本企業による強気の株買いも脅威として描かれている。

 

1980年代半ばから1990年代初頭の外国映画では日本の好景気を描くことも多いが、株という直結するテーマなだけに意味合いが変わってくるのも見どころ。


ゴードンの「アメリカは世界で2番目の列強になってしまった」というセリフからも当時の日本の勢いを伺うことができ、現在にはない、バイタリティに溢れていた日本の影を見ることができる。

 

欲望の権化ゴードン・ゲッコー

マイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーが本作をより素晴らしいものにしているのは間違いない。

 

彼は駆け出し投資家のバド(チャーリー・シーン)にはほとんど興味を示さないがバドの若さと野心を利用するためにインサイダー取引を指示する。バドは父親が勤めるブルースター航空の内部情報を話し、友人のオフィスから社外秘の企業情報を盗み大金を手に入れる。

 

野心と金で盲目になっているバドを駒として利用するゴードンは一見すると冷血・冷酷に見えるが、バドが拒否していれば他の若手に話をもちかけていたことは明らかで、この業界の黒さや残酷さを表現するには十分な演出だ。

 

また、ゴードンは製紙会社の株主総会で会社を批判し、欲を肯定するスピーチを行い他の株主らから拍手喝采をうける。

「強欲は善」「金は眠らない」などのセリフは本作を代表するセリフとして取り上げらることも多く、欲望が渦巻く世界であることを強く印象付ける。

 

その後も彼はバドを利用し続けるが、バド自身は気づいておらず、紹介してもらった美女と高層マンションで同棲しながら人生の絶頂期だと悦に浸っている。
夕陽が沈むマンションと自由の女神のショットは野心と栄華のメタファーであると同時に、明るくない未来、そしてその先にある破滅をも暗示しているようで秀逸だ。

 

ブルースター航空再建の真意

ブルースター航空の経営が厳しいことを知ったゴードンは再建を前提に買収を提案するが、労働組合でバドの父親だけが「信用ならない」と反対し、ゴードンを崇拝しているバドには理解が出来ず激しく衝突してしまう。

 

その後、バドはブルースター航空再建会議に参加するが、ゴードンの数々の嘘や欺瞞が明らかになり、再建する気など全くなくゴードンだけが7,500万円という大金を手にする仕組みになっていることをしり、ようやく利用されていたことに気がつく。

 

父親は最初の時点でゴードンが息子を金儲けのために利用し、会社も乗っ取るつもりだと見抜いていたが、欲望で盲目になっているバドには声が届かない切なさ。人生経験の差やお金に対する考え方の違いが如実に表れており、虚しさだけが残った空気が何とも言えない物悲しさを生んでいた。

 

ゴードンとの決戦

騙されていたことに気がついたバドはゴードンに対抗する計画を立て、徹底抗戦の構えを見せる。激しい株取引の応酬が展開され、専門用語も多く飛び交うのだが、テンポの良い演出で非常に分かりやすく、専門知識がなくても理屈を理解できる。

 

また、ダーティな相手にはダーティな手で対抗するという展開は一種のカタルシスのようなものも感じられ、娯楽映画としての見どころもしっかり落とし込む、オリバー・ストーン監督の手腕が光る。

 

逮捕、告発

目論み通りゴードンに大損害を与えたが、出社すると警察と証券取引委員会が待っており、インサイダー取引容疑で逮捕される。

 

職場の不穏な空気、同僚たちの冷たい視線、上司の更生を期待した励ましの言葉など生々しい演出が突き刺さる。今にも泣きだしそうな姿は、かつてのギラギラしていた頃からは想像もつかないほど弱々しく、まだ若い青年だったことを思い出させる。

 

逮捕後、ゴードンと2人で公園で会うが、指示を守らず終いには裏切った怒りからバドを殴り、「君の中に自分を見た」と言い残し去っていく。利用したのは事実だが、バドに若かりし頃のかつての自分の影をみて幾多の証券マンから選んだと思うと、冷血人間と思われているゴードンにも人間味を感じてしまう。

 

その後、録音テープを委員会メンバーに渡し、ゴードンも同容疑で逮捕されることを示唆する。そして、「おそらくこれがお前の人生で一番良いことだ」と父に励まされ、検事局の階段を上っていく。

 

道を踏み外したものの歯止めが効かなくなる前に逮捕されたことで、まだ救われたと解釈できる。闇をみたからこそ本当の自分に向き合い、罪を償い中で自分自身や人生について見つめなおすことができる、そのように捉えることができ、最後まで息子を思いやる父親の愛を感じられるセリフだった。

 

5.個人的にマイナスだった点

ダリル・ハンナの演技

マイケル・ダグラスとマーティン・シーンの熟練の演技に挟まれるため余計に悪目立ちしてしまう部分もあるものの、単体でみても中々ひどい演技をしている。

また、物語的にも絶対必要な役ではないため出るたびにテンポが損なわれてしまう。

 

本作でラズベリー賞を受賞しているのも納得だ。


6.総評

本物の証券マンを起用したことやデジタル移行前の証券取引ということも相まって、本物さながらの熱気を感じられる。細部まで凝った骨太な作品になっており、演出・脚本・演技・撮影など全てにおいて高水準でまとまっている。

 

監督自身はゴードンと正反対の思考で、過剰な資本主義は倫理観や経済価値を崩壊させると考えているため批判するために描いたにも関わらず、監督の意思とは反対にゴードンに憧れた投資家が急増したため遺憾に思っているらしいが、マイケル・ダグラスの演技はもちろん、思考や言動、ファッションに至るまで非常に魅力的だ。

 

また、監督は『プラトーン』でアカデミー監督賞を受賞した直後だったが、実際に血が流れる戦争を描いた『プラトーン』に対し、本作では血が流れない金の戦争を描いたことが興味深い。

 

公開直前にブラックマンデーが起こり景気の底が見えていたため現実にそぐわないため急遽冒頭に1985年の出来事と追加したが、暴落後に制作されていた場合、物語はどのように展開されたか、バドとゴードンの関係性はどのような変化がもたらされたかなど気になる部分も多いが、次作『ウォール・ストリート』では世界金融危機後を描いており、そちらにも期待したい。


7.こぼれ話

  • ゴードン、ワイルドマンには実在のモデルがいる。
  • オスカーとラジー賞を受賞した唯一の作品である。