ゆうの孤独のシアター

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『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』スリリングな展開が続く劇場版第1作

アニメシリーズのヒットを受けて制作された長編作品で以降は毎年春に新作が公開されるのが恒例になる劇場版シリーズの第1作『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』の解説・考察をしていく。(犯人に関するネタバレあり)

 

 

 

1.作品概要

監督:こだま兼嗣

脚本:古内一成

製作:「名探偵コナン」制作委員会

製作国:日本

配給:東宝

時間:95分

公開:1997年4月19日

出演:高山みなみ、山崎和佳奈、神谷明、山口勝平、石田太郎ほか


2.あらすじ

ある日、コナンの正体である高校生名探偵・工藤新一に、建築家の森谷からパーティーの招待状が届く。新一は電話でガールフレンドの蘭に代理出席を頼み、自分はコナンとして蘭に付き添おうとするが、その代わり5月3日の夜に、蘭と映画「赤い糸の伝説」に行くことになった。コナンたちがパーティーに出席した数日後の5月3日、特殊火薬盗難事件と連続放火事件が発生する。そして、その犯人らしい男が新一に爆破予告をしてきた。(映画.comより引用)

3.主な受賞・選出

 

4.作品の見どころ・考察

スリリングな展開の連続

冒頭の黒川邸事件、止まらない列車、2つの爆弾、ビルの爆発など100分弱の時間ながら矢継ぎ早に展開されていき、最後まで飽きさせない工夫がされている。

 

推理はもちろん、アクション、サスペンス、ロマンスなど様々な要素が組み込まれており、普段のテレビシリーズとは差別化を図っているのが見受けられる。

個性的な犯人

犯人の建築家・森谷帝二は、左右対称=シンメトリーに異常なまでのこだわりを見せ、自身が手掛けた建築物は必ずシンメトリーにし、本名も貞治から改名するほどで、コナンが「病気」と評するほど固執していた。

 

そんな彼が若い頃は発言権や拒否権がなく生活のためにシンメトリー以外の建築物も設計していたが、自身の美学に反し、汚点として後世の残るのが許されず今回の犯行に至ったと語っている。

 

あまりに身勝手で常軌を逸した犯行動機だが、それがかえって絶大なインパクトを残し、歴代の劇場版犯人の中でも指折りの知名度を誇る。

 

また、コナンにあえて設計図を奪われたり、新一の誕生日を祝わせるために爆破時刻を0時から3分多く設定するなど最後まで森谷の異常性が強調されており、キャラクターのアプローチとしては大成功ではないだろうか。

名作映画のオマージュ

タイトルが『時計じかけのオレンジ』から引用されているほか、一定速度以下になると爆発するというプロットは『新幹線大爆破』や『スピード』などから、赤か青かは『ジャガーノート』などのオマージュであり、映画ファンなら楽しめる。

 

運転手や鉄道会社、管制の緊張感や慌ただしさ、異変を察知した車内やホームの乗客の混乱やパニックなどはアニメとは思えないほど非常にリアルで、だがオマージュしているだけでない点も作品の面白さに繋がっている。

5.個人的にマイナスだった点

駆け足過ぎる展開

展開が多く飽きさせないようになっている反面、全てのパートが駆け足になっている感は否めない。ヒントが多く提示されているため比較的序盤から犯人の目星が立ち、推理パートもあっさりとしているため、そこを求めている場合は物足りないだろう。

「好きなほうを切れ。死ぬときは一緒だぜ。」

終盤、瓦礫で辿り着けないため壁越しにコナンが指示を出しながら、蘭が爆弾の解体を行うが、最後の最後で設計図に記載されていない「赤と青」のコードのどちらかの切断を迫られる。その際、変成器で新一の声でコナンが上記のセリフを吐くのだが、蘭はその言葉で覚悟を決め片方のコードを切断する。

 

これまでの会話から赤を切ると森谷は確信していたが、最終的に蘭は青を切り、爆発せずに無事に解体に成功する。なぜ赤を切らなかったと森谷が問うと、「赤い糸だから」と微笑み、顔を上げると2人が観る予定だった映画『赤い糸の伝説』の看板が映し出される。

 

セリフやシチュエーションも新一らしさに溢れており、未だに劇場版シリーズの名シーンとして挙げられるほど人気の高い場面だが、歯の浮くようなセリフの連続と甘酸っぱすぎる2人のラブロマンスにこちらが恥ずかしくなってしまう。

 

重ねてになるが名シーンではある。あくまで好みの問題だ。

6.総評

直接の殺人は行われない点や、爆弾・爆発が多用されたことからアニメシリーズとの差別化が図られ、劇場版ならではのスケールの大きな事件を楽しむことができる。これらに加え、特徴的な犯人像や犯行動機、めまぐるしい展開などは次作以降も引き継がれ、推理に重きを置かない劇場版としての在り方を示しているかのようで、第1作にして中々の完成度を誇っていると感じられた。

 

また、コナンが爆風に巻き込まれて怪我をした際、病院に駆け付けた小五郎がコナンを叱責するシーンは保護者としての責任や心配が描写されており、TV版ではあまり見られない意外な一面だったため個人的に印象深かった。


7.こぼれ話

  • 森谷帝二はシャーロック・ホームズの宿敵モリアーティからもじって名付けた。