ゆうの孤独のシアター

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『名探偵コナン 14番目の標的(ターゲット)』なぜ小五郎は妃を撃ったのか?意外な過去を知れる名作

10年前、小五郎はなぜ警察を辞職したのか。なぜ妻の妃に銃をむけたのか。今まで明かされなかった小五郎の過去が明かされる『名探偵コナン 14番目の標的(ターゲット)』の解説・考察をしていく。(犯人に関するネタバレあり)

 



1.作品概要

監督:こだま兼嗣

脚本:古内一成

製作:名探偵コナン製作委員会

製作国:日本

配給:東宝

時間:99分

公開:1998年4月18日

出演:高山みなみ、山崎和佳奈、神谷明、山口勝平、鈴木英一郎、中尾隆聖、内海賢二ほか


2.あらすじ

目暮警部が公園でジョギング中にボウガンで撃たれるという事件が発生、翌朝には蘭の母親・妃が毒入りチョコレートの被害にあう。さらに、コナンの目の前で阿笠博士が襲われる。そして、三つの事件の現場には、それぞれトランプに関連のあるものが残されていた。狙われたのがいずれも毛利小五郎に関係のある人物ばかりであるということ、さらにトランプというキーワードから、目暮警部は小五郎が10年前に逮捕し、今は仮出所中のカード賭博のディーラー・村上丈の恨みによる犯行だと推測した。(映画.comより引用)

3.主な受賞・選出


4.作品の見どころ・考察

アガサ・クリスティの小説のような設定

本作は被害者が全員名前に数字が関係すること、現場には"死"を意味するスペードのトランプが置かれていたことなどから『ABC殺人事件』を彷彿とさせる。

 

また、数字に関する名前を持つもの達が一同に集められ、脱出不能な状況に陥るのは『そして誰もいなくなった』を思わせ、クローズドサークルの様相も呈しており、推理小説ファンなら楽しめるのではないだろうか。

パニック映画のような畳みかけ

海洋娯楽施設アクアクリスタルに集まった一同だが、犯人の仕掛けた罠のボーガンが発射されたことから一気にパニックになる。

 

出入口は封鎖されており電話線も切断、ブレーカーも落とされ暗闇の中で小山内が刺殺され、海中にオーナーの旭の死体が漂う。

 

さらに仕掛けられた爆弾によって爆発し、水中で脚を挟めて動けない蘭を助けに、コナンが空のペットボトルを持ち助けに行くが、今度はコナンが身動きが取れなくなってしまう。絶体絶命だが、蘭の口移しで空気が送られ2人は助かる。

 

このあたりの畳みかけは実に見事で、2作目にして劇場版としての在り方をすでに熟知しているかのよう。今まで描かれなかったキスシーンを生死がかかった状況、しかも水中で描くのが何とも憎らしい。

 

小五郎が警察を辞職した理由

容疑者として村上が挙がるが、彼がかつて起こした事件で妃が人質になり小五郎が銃を向けるという事があった。

小五郎は妃に構わず発砲し、弾丸は妃の脚をかすめて負傷してしまう。村上は取り押さえたものの、この行為が内部で問題となり責任を取らされる形で辞職したという。

 

その事実を知った蘭は困惑し新一に電話をかけるが、「事実は真実ではないこともある」と諭される。

アニメシリーズでは語られなかった辞職理由と、「事実≠真実」という点は本作を語る上では外せなく、ハイライトの1つとなっている。

 

 

小五郎の真意

犯人・沢木は自白するが蘭を人質に抵抗を見せコナンに銃を持ってくるように指示をする。銃を手にした瞬間、なぜ発射したのか気付かされる。

 

怪我をした人質は足でまといでしかなく、致命傷になりにくい脚をあえて撃ったと悟ったコナンは蘭に向けて銃を向ける。

 

無音のままコナンの周りを回転し、当時の小五郎、そして新一がオーバーラップし銃弾が発射され、メインテーマの中で小五郎が背負い投げで沢木を確保する一連の流れはアクション映画のツボを押さえた抜群の演出だ。

 

「死なせやしない、罪の重さを分からせてやる」

なおも抵抗し死のうとする沢木に対して小五郎が強く言い放ったこのセリフは、小五郎の犯罪者に対するスタンスが如実に表れている。

 

人質の脚をかすめて撃つほどの射撃の技術があれば村上を撃つことも可能だろうが、あえてそうしなかったことからも刑事時代から変わらぬ信念だと読み取れる。

 

その真意に気づいた村上が出所後に謝罪と感謝を伝えに探偵事務所に訪れていたことからも、その行いが間違いではなかったと思われる。

 

だが、不在で面会できず偶然出会った沢木に理由された挙句殺害されるなど、無情さや不条理さもえがかれており、作品に大きな影を落としているのも脚本の構成力の高さを伺える。


5.個人的にマイナスだった点

魅力のない犯人

犯人・沢木はバイク事故が原因で味覚障害になりソムリエとして働けなくなったが、事故の誘発したのが小山内だった。直接の接触はないものの誘発した自覚があるにも関わらず、転倒した沢木を救護せずに現場から立ち去っており非があるが、それ以外の被害者は言いがかりにすぎない。

 

味覚障害の理由の一つにストレスと診断されるが、それらは被害者らによって受けたものと語るが、「高級ワインを買い漁るくせに知識がなく管理が杜撰」「本で間違った知識を広めた」「パーティで馬鹿にしてきた」などどれも幼稚で短絡的。

 

さらに、目暮らは数字の規則性のためのカモフラージュ、証拠隠滅のために施設を爆発、爆発によって小五郎らがどうなるかは関係ないと言い切るなど、歴代の犯人の中でも屈指の凶悪さを誇るが、あまりにもテンプレな犯人像で前作の森谷のようなオリジナリティを感じられない。

 

上記の小五郎のセリフをより際立たせるための設定だが、さすがにやりすぎの設定とも思い、魅力的な犯人ではないと感じた。

6.総評

本作の実質的な主人公は小五郎であり、今まだ描かれなかった過去の出来事が描かれたことにより、キャラクターにグッと深みが加わった。また、アニメシリーズで度々描かれていた「刑事時代は有能だった」「本気になると頼りになる」という部分の答え合わせにもなっており、作品としての幅が広がったように思える。

 

「真実」に気づき誤解がとける蘭と白鳥に対し、当時から「真実」に気づいていた妃と目暮のコントラストも見事で、刑事を辞職後も何故目暮が小五郎のことを気にかけ、そして信頼しているかも読み取れるようになっているラストは構成力が光っている。

 

人間の罪深さやエゴイストのメタファーのような崩れ行く海洋娯楽施や、現実の犯罪にも通ずる小五郎のセリフなど、なかなか社会派的な雰囲気を持った骨の太い作品だった。


7.こぼれ話

  • タイトルの「日本語を英語の読みにあてる」が初めて使用された。
  • 半分ネタにされているお馴染みのセリフ「ガキの頃に親父に教わった」が劇場版では初登場した。(ヘリコプターの不時着の際)。