巧みな構成と映像術、圧倒的バイオレンス描写が見事な名作。監督デビュー作ながら数々の賞に輝き、いまなお熱狂的ファンも多いの『レザボア・ドッグス』解説・考察をしていく。
1.作品概要
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
製作:ローレンス・ベンダー
製作国:アメリカ
配給:ミラマックス、日本ヘラルド映画
時間:100分
公開:1992年1月18日
出演:ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、クリス・ペン、スティーブ・ブシェミ、クエンティン・タランティーノほか
2.あらすじ
宝石店を襲撃するため寄せ集められた黒スーツ姿の6人の男たち。彼らは互いの素性を知らず、それぞれ「色」をコードネームにして呼び合う。計画は完璧なはずだったが、現場には何故か大勢の警官が待ち伏せており、激しい銃撃戦となってしまう。命からがら集合場所の倉庫にたどり着いた男たちは、メンバーの中に裏切り者がいると考え、互いへの不信感を募らせていく。(映画.comより引用)
3.主な受賞・選出
- 第三回 ストックホルム国際映画祭 <大賞>
- トロント国際映画祭 <最優秀作品賞>
- シッチェス・ファンタスティック映画祭 <監督賞、脚本賞>
ほか
4.作品の見どころ・考察
独創的な構成
タランティーノ監督の初長編作品だが、後の作品でも見られる「時間軸をバラバラにした」演出が本作で既に完成されつつある。
各メンバーごとにチャプター分けされているかのように小出しに見せていくスタイルで、序盤は人物像も分からず「なぜこの男は血だらけなのか」「彼らはどうゆう関係性なのか」といった疑問が浮かぶが、観客には少ない情報しか与えられないため情報を得ようと画面に引き込まれる。
そしてカットバックで過去を見せ、時間軸を再構築するのだが、その構成と映像演出が巧みで徐々にパズルのピースが埋まっていくように背景や全体像を浮かび上がってくる。
クールでスタイリッシュな独創的な映像に仕上がっており、多くのフォロワーを生んだのも納得だ。
バイオレンス描写の見せ方
本作で一番インパクトの強いシーンと言えば、人質にとった新人警官への拷問シーンだろう。
ブロンドは警官に対して、「口を割ろうが割らまいが拷問する」と宣言し、ラジオの音楽に合わせてリズムを取りながり殴り続け、カミソリで耳を削ぎ落とす。
カンヌ国際映画祭で「心臓が弱い方は鑑賞をお控えください」と警告が出され、退席者が続出したというショッキングなシーンだが、意外にも直接の描写がないのだ。
見せない事で想像力をかき立ててより恐怖が増すことを熟知し、素早いカット割りとカメラワークで巧みにバイオレンスを演出している点も特筆すべき点だ。
また、ガソリンを取りに外に出た際に音楽が小さくなり、倉庫内に戻ると再び音楽が大きくなるなど芸が細かく、バイオレンスシーンではあるがクスッとさせられる演出が多くあるのも特徴的だ。
「答えは英語にはないが、日本語にはある」
ラストで瀕死のオレンジが「自分が内通者だ」とホワイトに告白する。ホワイトは嗚咽を堪えながら苦悶の表情でオレンジのアゴに銃を押し当てる。同時に警察が突入し銃声が鳴り響く中で物語は終える。
「最後に自分の身分を明かさなければ生き延びられた可能性があったにも関わらず、何故わざわざ明かしたのか」と質問されたタランティーノ監督は「答えは英語にはないが、日本語にはある」と返答をしている。
その言葉とは「仁義」で間違いないだろう。
日本の文化に精通しており、大の日本映画好き、特に『仁義なき戦い』を始めとした任侠映画からの影響を公言していることからも間違いないと思われる。
盃こそ交わしていないが両者の不思議な絆や惨劇を招いてしまったことへのケジメが、偽って生きるより誠を通して死ぬことを選ばせたのだろう。
最後の銃声は音だが、ホワイトがオレンジを”介錯”したのも間違いないだろう。
この演出は弟のような存在だったオレンジに「仁義」で返したと受け取ることができ、影響よりも強い感情、もはや敬意さえ感じられるのだ。
5.個人的にマイナスだった点
延々と続く無駄話
こちらもタランティーノ監督作品の代名詞であり、これが好きでタランティーノ監督作品を観てるという方も多いが、私には全く合わない。
冒頭、マドンナの『Like a Virgin』の解釈について延々と10分弱も無駄話が続き、あまりのくだらない会話の応酬に苦痛とさえ思ってしまった。
中盤、最終盤になっても中身のないダラダラとした会話が延々と繰り返され、その都度イライラしてしまったので、合わない人はとことん合わない演出だろう。
6.総評
監督デビュー作ながら、素早いカット割り、時間軸を複雑化した構成、従来の脚本に捉われない雑談のような脚本、圧倒的なバイオレンス描写などタランティーノ作品の代名詞がすでに完成されつつある。
本作は数々の賞に輝き一躍スター監督の仲間入りを果たし、多くのフォロワーを生んだことからもインデペンデント映画のブームの火付け役といっても過言ではなく、影響力も計り知れない。
また、監督は自他ともに認めるシネフィルであるため劇中で様々な映画のオマージュと思われるシーンが多数登場する。それらの元ネタや影響を与えた作品を考察するのも楽しいだろう。
7.こぼれ話
- 監督の自主製作映画をハーヴェイ・カイテルが気に入り、製作総指揮を申し出て本格的なリメイクが製作された。
- 終盤、4人で銃を打ち合い全員被弾するが、現実には不可能。現場でも気づいていたが低予算のため、時間と製作費が足りなかったためそのまま完成させた。