名優ジャン・ギャバンが悪女〈ファム・ファタール〉に翻弄され破滅していくサスペンス映画『殺意の瞬間』の解説・考察をしていく。
1.作品概要
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
脚本:ジュリアン・デュヴィヴィエ、シャルル・ドラ、P・A・ブレアル
製作:ルネ・ペザール、レイモン・ボルドリー、ピエール・カボー
製作国:フランス
配給:パテ
時間:113分
公開:1956年4月13日
出演:ジャン・ギャバン、ダニエル・ドロルム、ジェラール・ブラン、ジェルムーヌ・ケルジャンほか
2.あらすじ
パリの市場に近いレストラン店主アンドレのもとへある朝みすぼらしい娘が訪ねて来た。カトリーヌという名で十八歳、アンドレが二十年前に離婚したガブリエルの娘だった。母に死なれ、ここを頼って来たというカトリーヌに、アンドレはすっかり同情、彼女を引取ることにした。(映画.comより引用)
3.主な受賞・選出
4.作品の見どころ・考察
典型的な悪女
ダニエル・ドロルムが演じたカトリーヌはギャバン演じるシャトランの前では愛想良く笑顔で接し、時には悩みを吐露するなど、信頼している素振りを見せ、気があるような思わせぶりな態度を取り続ける。
だが、シャトランがその場を後にした瞬間、笑顔は消え、生気のない目で悪態をつく。この変貌ぶりは演技とは思えないほどで、背筋が凍るような恐ろしさだ。
また、策略と見抜けずにぬかるみにはまっていき、堕ちていく情けないシャトランとの対比が効いている。
抜群の表情
こういった腹黒さや素の表情も素晴らしいが、終盤のあるシーンでは際立っていた。
シャトランとは対照的に友人ガブリエルはカトリーヌの真意に気づいており、何度も忠告していたためカトリーヌにとってはガブリエルが邪魔だった。
そのため、ガブリエルを手にかけ車ごと川に沈めるのだが、この時、泣き笑いのような表情を見せるのだ。
無事に邪魔者を消せた安堵感や安心感と同時に、一線を超えて殺人という大罪を犯した罪悪感、後には引けない後悔、破滅が近づいてる絶望感など様々な感情が入り交じった複雑な表情を完璧に演じてみせたこのシーンは、本作のハイライトだ。
5.個人的にマイナスだった点
テンポの悪さ
序盤、中盤のテンポが悪く、サスペンス・ミステリーとしての緊迫感や歯切れを削いでしまっている。
カトリーヌの目的が判明してからは加速していくため緩急だと思うが、少し緩すぎるのが残念。
6.総評
カトリーヌを演じたドロルム自身も「あのギャバンを操って、自分の鼻先に連れてきておもちゃのように弄ぶことなどできるのだろうか。そんなこと信じられない。無謀な挑戦だと思った。」と語っているように、名優ジャン・ギャバンが年端もいかない若い女性に翻弄され、振り回される姿は非常に新鮮だった。
知名度は高くないが、なかなか見応えがあり、隠れた佳作といった印象を受けた。