ゆうの孤独のシアター

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『まぼろしの市街戦』カルト的人気を誇る皮肉たっぷりの戦争コメディ

公開当時のフランス国内では、興行・批評の両方で失敗したが、アメリカで公開されるとロングランを記録し、以降、世界的に根強い人気を誇るカルト作『まぼろしの市街戦』の解説・考察をしていく。

 

 

1.作品概要

監督:フィリップ・ド・ブロカ

脚本:ダニエル・ブーランジュ、フィリップ・ド・ブロカ

製作:フィリップ・ド・ブロカ、ミシェル・ド・ブロカ

製作国:フランス、イタリア

配給:ユナイテッド・アーティスツ

時間:102分

公開:1966年12月21日

出演:アラン・ベイツ、ピエール・ブラッスール、ジャヌヴィエーヴ・ビュジョルド、フィリップ・ド・ブロカほか


2.あらすじ

第1次世界大戦末期、敗走中のドイツ軍が、占拠したフランスの小さな町に時限爆弾を仕かけて撤退。進撃するイギリス軍の兵士プランピックは、爆弾解除を命じられて町に潜入するが、住民たちも逃げ去った町では、精神病院から解放された患者とサーカスの動物たちが解放の喜びに浸り、あたかもユートピアのような生活が営まれていた。(映画.comより引用)

3.主な受賞・選出


4.作品の見どころ・考察

市民ごっこ

街に時限爆弾が設置されたと知った一般市民が避難した後、空っぽになった街に出てきた彼らは思い思いの仮装をし『市民ごっこ』をする。

 

一見すると自由で華やかな彼らだけのユートピアに見えるが、閑散とした街の風景と派手な服装で狂乱騒ぎに興じる彼らの対比が、言いようのない空虚さを生み出している。

 

また、時限爆弾の爆発時間まで刻一刻と迫っていることも、彼らの自由が有限であることを強調し、儚さだけが残る。全編通してこの空虚さや儚さが漂っており、独特の作風を作り上げている。

 

アメリカン・ニューシネマとのリンク

爆弾解除を命じられ街を訪れた通信兵のアランも、初めは避難するように説得するが、彼らは「外の世界は邪悪、獣が住んでいる」と一向に耳を貸さず、ついにアランは下っ端通信兵ではなく、ユートピアの王様として崇められて生きていく決意をする。

 

その後の爆弾を巡るイギリス・ドイツ両軍の攻防や、両軍全滅する銃撃戦などはあまりにも滑稽で、月並みだが「本当に狂っているのはどちらか?」と思わされる。

 

これらの構図は、本作の翌年にムーブメントとなるアメリカン・ニューシネマの走りとも言え、若者を中心としたヒッピーらの思想や反戦意識にもリンクしたのではないだろうか。

 

1967年にアメリカで公開されると爆発的なヒットとなり、本作がフランスより先にアメリカで評価されたのは必然的といえる。

 

市民ごっこの終焉

両軍が全滅したのを目の当たりにした彼らは、誰が言うでもなく自発的に病棟へ戻っていき、病服に着替えて門に鍵を閉める。さらに一度は隊に戻ったアランも病棟に戻り門の前に裸で立ち尽くす。

 

この演出は彼ら自身が、『市民ごっこ』をしていることを自覚しており、自らの意思で『狂った世界』に閉じこもっていることを示唆している。また、アランも外の世界の狂気から逃れ、ユートピアの王様として精神病棟で生きていくことを暗示させる。

 

『現実の狂気の沙汰』を目の当たりにして正気に戻るこの演出は空恐ろしいが、同時に痛烈な社会風刺にもなっており、狂人としてトランプ遊びに興じるラストに、本作の主題が凝縮されているかのようだった。

 

現実の戦争からの影響

監督はアルジェリア戦争に映画班として配属され、戦争の悲惨な現実を目の当たりにし、大きな影響を受けたと語っている。兵役を終えるとコミカルな作品で成功を収めるが、戦争への批判的な感情は常に根底にあり、その思いが結実した作品が本作だ。

 

だが、普遍的な反戦映画を撮るのではなく、人間の醜さや滑稽さに的を当てた結果、本作のような寓話的な作品が完成したという。また、1960年代は反権威主義・反体制主義のアングラ文化が盛んになった時期でもあり、そのことも本作の作風に大いに影響したと見て取れる。


5.個人的にマイナスだった点

中だるみする場面が多い

演出力は際立っているが、くどくて中だるみする場面が気になった。
直接的に笑わせるのではなくアイロニックな笑いがメインなため、無駄な演出が続くのはダラダラとした印象を受けてしまう。

 

センシティブな設定

精神病棟の狂人という設定は現代では不適切とされることが多く、目にする機会が非常に少なくなってしまい、これほどの名作が埋もれてしまうのはもったいない。


6.総評

内容以外でも、人物の言動や演出の細部に渡りあらゆる風刺が込められており、戦争及び人間の愚かさを徹底してアイロニックに描いていき、要所でハッとさせられる演出の妙を見せつけられる。

 

また、衣装や小道具、セットに至るまで色使いや造形などが独創的で作品の寓話性を高めていることも大きな特徴だ。

 

作品自体はナンセンスな喜劇だが、核心を突いた演出に思わずゾッとする場面も多く異彩を放っていると同時に、いつの時代でも通用する普遍さも持ち合わせているなど、様々な顔を併せ持つまさにカルト作だ。


7.こぼれ話