主演の2人が難役に挑み、「世界でいちばん静かなラブストーリー」と銘打たれた恋愛映画『サイレント・ラブ』の解説・考察をしていく。
1.作品概要
監督:内田英治
脚本:内田英治、まなべゆきこ
製作:松下剛、横山和宏、玉井宏昌、楠智晴
製作国:日本
配給:ギャガ
時間:116分
公開:2024年1月26日
出演:山田涼介、浜辺美波、野村周平、吉村界人、古田新太ほか
2.あらすじ
ある出来事をきっかけに声を発することをやめ、毎日をただ生きているだけの青年・蒼。不慮の事故で視力を失ったピアニスト志望の音大生・美夏と運命的な出会いを果たした彼は、絶望の淵に追い込まれながらも夢を諦めない彼女にひかれていく。(映画.comより引用)
3.主な受賞・選出
4.作品の見どころ・考察
役者陣の演技
本作は山田涼介演じる蒼が言葉を発することができず、浜辺美波演じる美夏が視覚障害を持っているため、互いの会話は手の甲に指を叩いたり、音を用いたものになっている。そのため、必然的に表情で感情や内面を表現することになる。
非常に難しいとは思うが、主演の2人は見事に演じ切り、独特の世界観を紡ぐことに成功している。ほかの出演者の演技もよく、作品を支えている。
特に、北村を演じた野村周平が終盤、涙をこらえながら一息吸い、唇と声を震えながら「すまなかった」と言うシーンがあるのだが、この場面は鳥肌が立つほどに上手かった。これは男ならば一度は経験あると思うが、申し訳なさや情けなさなど弱い部分を我慢しながら少しの強がりが入り混じった複雑な感情を見事に表現しており、演技の面では一番記憶に残った。
静かな世界
監督が北野武監督の『あの夏、いちばん静かな海」を意識したと公言しているように、設定にその影響を伺える。あえて極限までセリフを削ぎ落し、言葉がなくても心や温もりが互いの支えになっており、そこに久石譲の音楽が加わることで2人だけの静かな世界が構築されていた。
5.個人的にマイナスだった点
都合的すぎる展開
映画的な展開の連続で、現実味が損なわれているのが残念だ。
まず、蒼が北村にピアノを代わりに弾いてもらう理由が突飛で、脈略がない。北村が裏カジノで多額の借金を負い、たまたま居合わせた美夏と共に半グレ集団に白昼堂々大学の敷地内で誘拐されるのも強引で、駆け付けた蒼の行動やその後の警察の捜査、終盤で明かされる蒼が声を発することができなくなった原因などもご都合主義で、終始「んなアホな」と苦笑しながら観てしまった。
時代錯誤な演出・人物たち
まず冒頭、美夏は視力を失い自暴自棄になっているのか屋上から飛び降りようとするが蒼に助けられる(これも現代的ではないが2人の接点として仕方ないする)が、病院から抜け出したのか包帯を巻きながら画面に出てくる。それも素人がみても雑な巻き方と分かるもので、あまりの陳腐な演出に思わず笑ってしまった。
さらに、裕福な家庭であることを印象付けるためか、「ばあや」と呼ばれるお付きの運転手と過保護な母親と、こちらもアナログ。
心配した学友が声をかけると「主席候補のライバルが減るかどうかだから気になりますよね」と嫌味を言い、別の子に咎められると「絶対に首席で卒業しますから」と反発する。これほど気が強いなら飛び降りなどしそうにないと感じ、美夏の人物像は終始チグハグさを感じた。
二十数年前の『GTO』『池袋ウエストゲートパーク』『ごくせん』で見たようないかにもな半グレの面々に、いかにもな倉庫、いかにもな蒼の友達たちなど、令和とは思えない演出・人物描写が目立ち、もはやコメディなのではと錯覚するほどだった。
6.総評
役者たちの演技や作品に対する理解度は光っており、何故彼らが多くの作品で重用されているかが十分に理解できる。久石譲の音楽はやはり素晴らしく、映画を唯一無二のものに昇華する力は見事としかいいようがない。
その反面、強引で突拍子もないストーリー展開や陳腐な演出が作品の質を大きく下げており、純粋な恋愛ものとして製作したほうが作品のプロットや主演2人のファン層に合っていたのではないだろうか。
7.こぼれ話
- キーアイテムのガムランボールは、インドネシアで古くから伝わる楽器で「邪気をはらう」とされている。