ゆうの孤独のシアター

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『エグゼクティブ・デシジョン』セガールのあんな姿が見れるのは本作だけ!アクション映画の佳作

アクションやSF作品のヒットメイカーとして知られるジョエル・シルバーが製作した、誰もがアッと驚かされる予想外の展開がたまらない『エグゼクティブ・デシジョン』の解説・考察をしていく。

 



 

 

1.作品概要

監督:スチュアート・べアート

脚本:ジム・トーマス、ジョン・C・トーマス

製作:ジョエル・シルバー、ジョン・トーマス

製作国:アメリカ

配給:ワーナー・ブラザーズ

時間:134分

公開:1996年3月15日

出演:カート・ラッセル、ハル・ベリー、ジョン・レグイザモ、デヴィッド・スーシェほか


2.あらすじ

ワシントンDC行きの747型ジャンボ・ジェット機がハイジャックされた。テロリストの主犯格ハッサンは、先日、イギリスで逮捕された組織のリーダーの釈放を要求する。緊急会議の席上、米陸軍情報部顧問のデイヴィッド・グラント博士は「世界一殺傷力の強いソ連製の毒ガスDZ-5を盗んだ彼らは、ワシントン攻撃を狙っている」と、驚くべき仮説を立てる。(映画.comより引用)

3.主な受賞・選出

  • 第17回ゴールデンラズベリー賞
    ワースト助演男優賞 ノミネート 

4.作品の見どころ・考察

ツボを押さえた演出

『プレデター』『ダイ・ハード』『リーサルウェポン』などの数々のヒット作を製作してきたジョエル・シルバーが製作に携わっているだけあり、ツボを押さえた良質なアクション映画になっている。

 

ジョエル・シルバーは2本のプレデター作品で脚本家のジム・トーマスとタッグを組んでおり、気心のしれた仲とも言える2人の親和性が作品に好影響を与えたのだろう。

 

イスラム教徒の描き方

テロリストグループのリーダー・ナジは「イスラムの戦士は異教徒全てが敵で、復讐しなければならない」と自身の復讐を正当化するためにアッラーの教えを歪曲解釈するが、部下の一人が「それはアッラーの意思ではない。個人的な恨みだ。」と反発する。

 

ナジのように過激な思考のイスラム教徒は、全体のごく一部ではあるが、過激派組織や本作の数年後に起こる9.11テロのせいでイスラム教徒=過激な思考、テロリストと直結してしまう場合も多い。

 

だが、本作では部下の反論を用いることで誤った認識だと指摘してくれており、他の映画ではあまり見られない点だ。

 

セガール、死す

本作で最も衝撃的な展開で、その後の展開を面白くしている最大の要因だろう。

 

ハイジャックされた飛行機に乗り移る際、乱気流による気圧の変化でセガール演じるトラヴィス中佐は宙に投げ出される。(明確な死の描写はないが、高度8,000mでパラシュート類は一切なしと、ほぼ確実に助からない状況。)

 

誰もが「セガールが無双して、テロリストたちを蹴散らしていく"いつもの"セガール映画」を予想するが、その予想を大きく裏切る大胆な展開にアッと驚かされる。さらに、物語の序盤で起きることも拍車をかけている。

 

というのも、日本ではカート・ラッセルと並びメインキャストとしてクレジットされ、ジャケットには顔がプリントされているが、日本版以外のジャケットには顔がプリントされておらず、クレジットも下のほうと完全な脇役なのだ。

 

セガールは主役以外で映画に出演することは非常に珍しいため(本作が初の脇役出演)ある意味では貴重な作品であり、セガール=「主役、人並外れて強い」というイメージを逆手に取った見事な演出だと言える。

 

また、隊長を失い混乱と失望のなか、隊員同士で知恵を絞り合い、テロリストたちに立ち向かっていく様を描くためにも、セガールの死は大きなものとなっている。


5.個人的にマイナスだった点

記憶に残るアクションが少ない

先述のようにツボを押さえた演出をしているため最後まで緊張感を保ってはいるが、ハイライトとなるような大きな山場がないのが残念。

 

全体的に高い水準だが、小さくまとまってしまっている印象を受けた。

 

クライマックスの不時着

最終盤でパイロットが撃たれたことでグラント(カート・ラッセル)がジーン(ハル・ベリー)の力を借りながら操縦し不時着するが、リアリティがなさすぎてもはやコメディにしか見えなかった。

 

冒頭でグラントがライセンス取得のために練習しており、その経験を活かすのだが、セスナのような小型機と大型ジャンボ旅客機では勝手が違い過ぎる。また、スティックシェイカーが作動し、ストール(失速)警報が鳴る中、ジーンがマニュアルをめくりながら指示を出し操縦するが、実際はそこまで悠長な時間はない。

 

さらに、着陸に最低3,000mの滑走路が必要とされるボーイング747機だったが、世界屈指の広さを誇るダレス国際空港への着陸に失敗し、復航して2,000mもないと思われる小さな飛行場へと着陸する。その理由も「空中で旋回は無理。慣れてるセスナの飛行場なら出来る」というもので、この時点で緊迫感はほぼ無くなってしまった。

 

一見すると最後まで息つかせぬ展開だが、私のように元空港勤務の人間から見ると穴が多く、あまりの適当さに幻滅してしまうクライマックスだった。

6.総評

神経ガスの奪還失敗、テロリストによるハイジャック、連絡が出来ず撃墜が迫る中での格闘と爆弾解除、最後の航空アクションと、とにかく手数が多く、観客を飽きさせない工夫が至る所で感じられた。

 

難しいことは考えずに楽しむことができ、何より物凄い勢いで吹き飛ばされるセガールのためだけでも観る価値のある映画。


7.こぼれ話

  • リアルな機内だがワーナーの撮影スタジオ内で、油圧式のジンバルシステムで横揺れや傾斜を演出した。