ゆうの孤独のシアター

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『クローバーフィールド/HAKAISHA』日本愛を感じる新時代の特撮映画

日本の特撮映画からの影響を随所で感じられるモキュメンタリー『クローバーフィールド/HAKAISHA』の解説・考察をしていく。

 

1.作品概要

監督:マット・リーヴス

脚本:ドリュー・ゴダード

製作:J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク

製作国:アメリカ

配給:パラマウント映画

時間:85分

公開:2008年1月18日

出演:マイケル・スタール・デヴィッド、オデット・ユーストマン、マイク・ヴォーギル、リジー・ギャプランほか


2.あらすじ

ニューヨーク、ダウンタウン。友人たちと楽しい一時を過ごしていた青年ロブだったが、その時、街が突然の爆音に揺れる。慌てて外に飛び出した彼らの目の前に、無惨に破壊された自由の女神像の頭部が転げ落ちてきた。(映画.comより引用)

 

3.主な受賞・選出

  • 第33回サターンSF映画賞


4.作品の見どころ・考察

モキュメンタリー形式の怪獣映画

本作はビデオカメラで映した映像が基本軸となっており、モキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー、疑似ドキュメンタリー)のスタイルをとっているが、怪獣映画でこの形式の作品は本作以前ではないと思われる。

 

この組み合わせにより、人々のパニックや死がより近いものになり、恐怖がダイレクトに伝わるようになっている。また、主観映像と映画的な第三者視点の映像の切り替え、使い分けがスムーズでどちらも違和感なく組み込んでいる点も凄い。

怪獣襲来のインパクト

パーティーの楽し気な雰囲気のなか突如、轟音が鳴り響き、テレビには臨時ニュースが流れる。大地震、石油タンカーの転覆、敵国のテロ攻撃など情報が錯綜しパニックになり、切迫した状況であることを察知して異様な雰囲気に飲まれていく様子はかなりリアル。

 

直後に爆発が起きて外に逃げると、市民たちの阿鼻叫喚の光景も映し出されるのも束の間、巨大な物体が飛散してくる。ズームで寄るとそれはアメリカの象徴とも言える「自由の女神像」の頭部だと分かる。さらに、高層ビル群を映すと怪獣の姿が僅かに映る。

 

テンポよく見せることで2つだけのアイテムで非日常の緊急事態が起き、アメリカが攻撃されていると強く印象付けることができる見事な演出だ。

 

日本の特撮映画とアメリカのアクション映画の融合

怪獣の描写や扱いは日本的であるが、市民の真横で怪獣と交戦する武装兵たちや、高層ビル群の間を飛ぶ戦闘機を煽りショットで捉えるダイナミックな映像はいかにもアメリカ的で、両者の良さを活かしつつ上手く融合した点も斬新さを感じられた。

 

ゴジラへの愛

J・J・エイブラムスが来日した際に、ゴジラが国民的存在であると知り、怪獣が日本文化に根付いていることに感銘を受けたことから本作は制作されたと語っている。

 

そのため、制作会社のロゴで怪獣の足音、前述のアイコニックな建造物の破壊、怪獣に大量の寄生虫が付着しており未知の病原菌の被害を出す、核兵器の使用、サブタイトルにKAIJYUU(破壊者)とつけるなど、至る所でゴジラへの愛を感じられる。

 

また、主人公が日系企業に勤めており日本への栄転が決まっている、そのパーティーで寿司などの日本食が振舞われているなど、J・J・エイブラムスの親日家ぶりも作中で見受けられる。

5.個人的にマイナスだった点

長すぎる冒頭シーン

送迎パーティーの様子から物語はスタートするが、これがとにかく長くてほとんどなにも起こらないため、その後の展開が駆け足になってしまっている。

 

各人物の性格や関係性、遠距離恋愛になることへの恋人との不和、穏やかな日常を描くことでのその後の展開との対比など重要なパートではあるものの、90分弱の映画で30分ほども費やすのはさすがに時間を割きすぎている。

 

ラストの前日譚

ラストで、惨劇の約1か月まえのデートで観覧車から海を映した映像に切り替わるが、画面の奥のほうに何かが海に落下する様子が捉えられていたことを示して映画は終わる。

 

その時点で怪獣の侵略(偶然の漂流かもしれないがどちらかは不明)が既に始まっていたことを暗示させるエンディングなのだが、これがかなり見つけにくく、初見では見逃してしまいそうなほどだ。

 

私は唐突に挿入された映像に違和感を覚え、巻き戻して目を凝らして見つけたが、劇場ではそうもいかないので、穏やかな日常が破壊されたとしか受け取ることができないかもしれない。SF映画のプロローグとしては心躍る演出だけに惜しいなと感じた。

6.総評

随所でゴジラを始めとする日本の特撮映画への愛や敬意を払いながらも、オリジナリティのある演出を組み込み、アメリカ式の怪獣映画に昇華させたことは素晴らしい。

 

また、ザラついた不安定な画質や情報の断絶によるパニックは、まだスマートフォンが完全に普及していない過渡期の時代だからこそで、抜群のタイミングでの制作だったのではないかと思わされた。


7.こぼれ話

  • クリーチャーデザイナーのネビル・ペイジによると、怪獣は生まれたばかりの赤ん坊で母親を探している設定とのこと。
  • クレジットを除いた上映時間は約80分だが、これは一般的カムコーダーに使われるminiDVのテープの長尺に相当するという。