ゆうの孤独のシアター

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『デスレース2000年』B級映画の帝王が送る元祖デスゲーム

「B級映画の帝王」と呼ばれるロジャー・コーマンが製作し、後にリメイクなどもされたカルト的人気を誇る『デスレース2000年』の解説・考察をしていく。

 

1.作品概要

監督:ポール・バーテル

脚本:ロバート・トム、チャールズ・グリフィス

製作:ロジャー・コーマン

製作国:アメリカ

配給: ニューワールド・ピクチャーズ

時間:84分

公開:1975年4月27日

出演:デヴィッド・キャラダイン、シモーネ・グリフィス、シルヴェスター・スタローン、マーティン・コーヴほか


2.あらすじ

西暦2000年、独裁国家となったアメリカでは大陸横断レース「デス・レース」に国民が熱狂していた。そのレースは、走行中に人間を殺していくことでポイントが加算される文字通りの死のレースで、参加するレーサーたちは壮絶な死闘を繰り広げる。(映画.comより引用)

 

3.主な受賞・選出


4.作品の見どころ・考察

狂気じみた設定

あらすじで分かるように、悪趣味極まりない設定が本作の最大の特徴だ。
老人や子供はポイントが高く、今回が20回目の大人気レース、さらには政府主催という設定も狂気じみている。

 

完全に好みがハッキリと分かれるような作風だが、後世への影響も大きい。
亜流映画が数多く制作されただけでなく、ゲームや漫画、アニメなど様々なジャンルに設定が流用されたことを考えると影響力のほどを伺える。

 

ブラックな笑い

設定自体がブラックジョークだが、随所でもブラックな笑いが光る。
参加者はフランケンシュタインやヒトラー、赤ん坊に見せかけた爆弾、轢かれた人の妻にインタビューと賞品、マンホールから頭を出した瞬間に轢かれ血の噴水、轢いた後に空ふかしで止めを刺すなど、バリエーション豊かに残酷描写が描かれる。

 

特に、「安楽死デー」と呼ばれる、レースの道路に車イスの老人や患者を配置し轢かせる演出はハイライトとも言える。”フランケンシュタイン”はあえてそれを避けて看護師らを轢いたが、この発想とネーミングセンスは素晴らしい。

 

ベトナムの影響

後にロジャー・コーマンは「当時は全てがベトナムが関係した」と語っているが、本作もその影響を強く感じ取れる。

 

狂気の殺人劇に熱狂する観客やメディアは、自由を渇望し、アメリカという国の在り方が揺らいでいた当時の世相を反映しているかのように思える。大統領側近の司祭を不意打ちで轢くと一番の盛り上がりを見せるが、このシーンに、政府に対する国民の不信感や鬱憤が凝縮されている。

 

暴力を望む人間の本質

原作者イブ・メルキオールはカーレースの観戦中に、クラッシュで火だるまになるレーサーを見て絶望に近い感覚に陥ったが、観客は彼とは反対に大歓声で盛り上がっていたことから「人間は本質的に暴力が好き」という考えに至ったという。

 

また、コーマンも「人々は戦争は否定するが、バイオレンスを求めることに矛盾を感じた」とし、原作の悪意を残しつつブラックコメディに仕上げたが、当初は難色を示したという。だが、作品の本質に暴力への同じ認識を感じられ、自身の作品の真意を見抜いてくれたことを大変感謝したとされる。

 

このように、作品のアプローチは違えど、根底にある思いが合致していたため、納得のいく作品が出来上がったのだろう。


5.個人的にマイナスだった点

チープすぎる映像

低予算C級映画なので仕方ないが、とにかく映像がチープだ。
カーチェイスは明らかに早回し、満員の観客は別映像の貼りつけ、背景がはりぼての絵などは慣れていないとかなり忍耐力を求められる。

 

ゴア描写もチープで現在の技術でリメイクしたら凄まじい映像になりそうだが、このチープな映像だから見られるという方もいるのでは。


6.総評

奇抜なアイデアとジョーク、チープさを逆手に取った映像、鑑賞しやすい短い時間にメッセージ性も込められている奥深さなどは、B級映画そしてロジャー・コーマンの醍醐味を味わえる。

 

ラストで「殺戮の歴史は人類が武器を使用し、考えることを始めたときから繰り返されている」と表示され、フランケンシュタインの最後の行動もそれを思わせ、痛烈な批判となっている。

 

観る人を選ぶ作品ではあるが、今なおカルト的ファンが多いことも頷ける一作。


7.こぼれ話

  • 『ロッキー』でブレイク前夜のスタローンが出演しているが、コーマンは後年「安い買い物ができた」と笑っていた。
  • デイヴィッド・キャラダインは『燃えよカンフー』のイメージを払拭するために出演を決めた。
  • 初めはコッポラ監督やジャック・ニコルソンにオファーしたが断られた。
  • 低予算のため車の予備はなく、ほとんどシーンで俳優自身が運転している。