ゆうの孤独のシアター

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『パシフィック・リム』KAIJYUの描き方に感動!ハリウッド産オタク映画

特撮映画、そして日本への愛が詰まったオタクによるオタクのためのオタク映画である『パシフィック・リム』の解説・考察をしていく。

 

 

 

1.作品概要

監督:ギレルモ・デル・トロ

脚本:ギレルモ・デル・トロ、タラヴィス・ビーチャム

製作:ジョン・ジャッシニ、メアリー・ペアレント、トーマス・タル

製作国:アメリカ

配給:ワーナー・ブラザーズ

時間:132分

公開:2013年7月11日

出演:チャーリー・ハナム、菊地凛子、イドリス・エルバ、チャーリー・デイほか


2.あらすじ

2013年8月11日、太平洋の深海の裂け目から超高層ビル並の巨体をもった怪物が突如出現し、サンフランシスコ湾を襲撃。「KAIJU」と名付けられたその怪物によって、わずか6日間で3つの都市が壊滅する。人類は存亡をかけて団結し、環太平洋沿岸(パシフィック・リム)諸国は英知を結集して人型巨大兵器「イェーガー」を開発。KAIJUとの戦いに乗り出す。(映画.comより引用)

 


3.主な受賞・選出

  • 第67回英国アカデミー賞 特殊視覚効果賞 ノミネート
  • 第19回放送映画批評家協会賞 視覚効果賞 ノミネート
  • 第45回星雲賞 メディア部門
    ほか


4.作品の見どころ・考察

日本作品への愛

怪獣はそのまま「KAIJYU」とされていることからも分かるように、本作は日本の特撮作品や怪獣作品への愛に溢れており、それはもはや尊敬の念すら感じられるほどだ。

 

まずイェーガーたちは、日本のロボットアニメや戦隊シリーズの合体ロボットをモチーフにしているのが明白だ。海外の作品では等身から数メートルサイズかつ自らの意思を持つタイプが一般的で、人間が操作をする巨大ロボットという設定はほとんど見られず、あえて日本的な設定を踏襲している。

 

また、怪獣の大きさや強さを表す指標は「セリザワ・スケール」で区分されるが、こちらは『ゴジラ』の芹沢博士から拝借しているのは言うまでもない。さらに、パイロット2人の神経とマシーンを接続し、意識や痛覚を同調するという設定は『新世紀エヴァンゲリオン』や『攻殻機動隊』から、イェーガーが『マジンガーZ』のフォームそのままにロケットパンチを繰り出したりと、様々な日本作品のオマージュを見ることができる。

 

並々ならぬ熱意

劇中では主に4体のイェーガーが登場するが、企画段階では100体ほどのデザインを考案し、そこから候補を絞り、デザインの決定まで4~5か月、機能や設定の決定にさらに5~6か月費やしたというから驚きだ。

 

ラストでは「この映画をモンスターマスターのレイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ」と献辞が表示されるが、偉大な2人の映画監督に対して恥ずかしいものを出せないという監督の決意が細部へのこだわりに如実に表れている。

 

圧倒的なCG技術

特撮への愛と先人への敬意を成立させるためにハリウッドのCG技術が大きく貢献しており、従来の特撮とは一線を画すかのような映像に仕上がっている。

 

イェーガーの造形はもちろんのこと、KAIJYUとの戦闘シーンの迫力、機械の光沢や精密さ、機体についた傷・汚れ・煤・焼け跡など、全てにおいてハイクオリティで思わず見惚れてしまう。

 

視覚効果はかの有名なILMに依頼し、アカデミー賞受賞者のジョン・ノールとハル・T・ヒッケル、『アイアンマン』のアーマーを担当したシェイン・マハンら視覚効果界の精鋭らが参加し、本作の視覚効果でも高い評価を得た。

 

約1.9億ドルという特撮ロボット映画としては破格の予算がつぎ込まれたらしいが、金額に見合うだけの圧巻の映像を堪能できる。

 

天才・芦田愛菜

菊地凛子演じる森マコの幼少期役として当時8歳の芦田愛菜が出演しているが、「KAIJYUによって蹂躙され瓦礫の山になった街中で、恐怖と絶望で泣き叫びながら母親を探す」というシーンを何もないグリーンバックの前で演じ切り、作品のハイライトのひとつとなった。

 

嗚咽がでるほどの迫真の演技はスタッフ陣や公開後のハリウッドでも大絶賛され、監督は「僕が仕事をした最高の役者の一人」と最大級の賛辞を送っており、わずか数分の出演ながら天才子役と呼ぶにふさわしい演技力を見せつけた。

 

KAIJYUの価値観

西洋文化ではモンスターは悪と考えるのが通常だが、日本では文化として定着しており、自然災害のような「人間の力では及ばない」という畏怖の念が込められた存在として描かれることが多い。

 

監督はこの点も十分に理解していると思われ、本作のKAIJYUもそのように描かれる。
このことは監督が日本文化を深く理解していることのほかに、監督の母国メキシコの文化や国民性が大きく関係しているように思われる。

 

メキシコは世界有数のプロレス大国だが、ベビーフェイス(善玉レスラー)よりヒール(悪役レスラー)が愛される傾向にあり、怪獣に対して同様の感情抱くと監督自身が語っている。そのため、「ヒーロー対怪獣」の構図は「ベビーフェイス対ヒール」に置き換えることができ、プロレスのように楽しむことができるという。

 

このように文化や価値観が近い部分が多いことが、特に日本とメキシコで本作が受け入れられた要因の1つではないだろうか。

 


5.個人的にマイナスだった点

没個性的な展開や脚本

トラウマの払拭、自己犠牲の精神、仲間との友情や成長などハリウッド映画が何千回と描いてきた展開が延々と続くため、ストーリーや演出に目新しさが一切ない。

 

ハリウッドの大作アクション映画や少年漫が好きな方は好きな内容だろうが、ご都合主義な展開やメッセージ性が皆無な点は評価が分かれるポイントだ。

 

日本が撮るべき映画

鑑賞後に「これは日本人が撮ってほしかった」と思ってしまったが、予算的に不可能だと悟り、仮に同じ予算があった場合でも、このような映像を今の日本の技術では到底無理だと思わされ、技術力の差を見せつけられた形になってしまった。

 

本来、日本が撮るべきだった実写版『トランスフォーマー』を鑑賞した際にも同様の感情に襲われ、悔しさを覚えた記憶が蘇った。


6.総評

数々の作品のオマージュを散りばめており、監督のルーツを辿ることができ、元ネタを探すだけでも楽しい。だが、過去作品を模倣しただけにならずに、しっかりとオリジナリティを感じられる作品に仕上げた手腕は見事。

 

また、怪獣をモンスターでもクリーチャーでもなくKAIJYUとし、彼らの扱いが日本的な点も非常に好感が持てる。”オタク映画”ではあるが、万人が見ても面白いと感じられるため、監督のバランス感覚の良さも際立っており、特撮映画の新たなスタンダードを確立したかのように思える。


7.こぼれ話

  • 監督は芦田愛菜の緊張をほぐすために「トトロって呼んでね」と優しく笑いかけ、デルトモと発音できなかった芦田愛菜は「トトロ」と呼んでいた。
  • 監督が一番好きな怪獣は「バルタン星人」。