ゆうの孤独のシアター

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『ファウンド』歪んだ兄弟愛と悪趣味スプラッターの奥にある普遍的なテーマが刺さる怪作

歪んだ兄弟愛と悪趣味スプラッターの奥にある普遍的なテーマが刺さる『ファウンド』の解説・考察をしていく。

 

1.作品概要

監督:スコット・シャーマー

脚本:スコット・シャーマー、トッド・リグニー

製作:レヤ・テイラー、デイミアン・レスナー

製作国:アメリカ

配給:AMGエンタテインメント

時間:103分

公開:2017年1月10日

出演:ギャビン・ブラウン、イーサン・フィルベック、フィリス・ムンロー、ルーイ・ローレスほか


2.あらすじ

ホラー映画が大好きな11歳の少年マーティ。学校でいじめられている彼にとって一番の楽しみは、家族の秘密を覗き見すること。母親がベッドの下にラブレターを隠していることや、父親がガレージの奥にヌード雑誌を置いていることを、マーティだけが知っていた。そんなある日、マーティは兄のクローゼットに人間の生首が入っているのを発見する。(映画.comより引用)

 

3.主な受賞・選出

〈受賞〉

  • トロント・アフター・ダーク
    映画祭最優秀作品賞、最優秀タイトル賞

 

ほか計42冠(真偽不明)


4.作品の見どころ・考察

徹底したグロ描写

本作では生首や身体破損などスプラッターが多く演出されるが、低予算映画にも関わらずかなりのクオリティを誇っている。

 

特に劇中作『Headless』にはかなりの時間と力を割いており、こちらが本編なのではないかと錯覚するほど。生首で自慰行為をするなど悪趣味極まりない描写が延々と続き、凄惨な場面の連続だが、クオリティ自体はこちらも高く、予算のほとんどをこの部分に注いだのではないだろうか。

意外と普遍的なテーマ性

俗物的な演出が目に付くが、根底にあるのはどの家庭にも通じる普遍的なテーマが描かれている。

 

一見平凡そうな家族で何の問題もないように見えるが、両親と折り合いの悪い兄のほか、母親は不倫相手からと思われる手紙を隠しており、父親もエロ本を大量に隠している。お互い知っているのか、それとも知られても気にしないのか、いずれにせよ家庭が機能していないことを暗示するシーンも多い。

 

さらに、両親がマーティのことを理解していないことが端的に描かれる。特に顕著なのが、マーティがいじめっこに反撃して殴り返した際、父は「相手がしんでいたかもしれない。そうなったら俺がお金(賠償金)を払い続けなければならないんだぞ」と極論を口にし、母は「おとなしくていい子だと思ったのに」と無意識のうちに抑えつけて育ててきたことが伺えるのだ。

 

これらはどの家庭でも経験してきたことで、親の対応に苛立ちや不信感を覚えた方も多いのではないだろうか。

 

体裁や世間体を気にするのは親としては当然だが、子供としてはまず自分の事を心配してほしい、心に寄り添ってほしいと思うのが普通だろう。本作では、「なぜ殴ったのか」「殴ったときにどんな気持ちになったのか」などマーティの心情を理解せずに頭ごなしに怒鳴りつけ自らの保身ばかり口にする。

 

また、神父は「なぜ大人に話さない?」「当人と話し合いで解決できたはず」と綺麗ごとばかりを並べるなど、周囲の大人たちは、子供の気持ちや事情を理解しないまま、大人の常識で話を進める人物ばかり描かれており、この点も考えさせられる演出になっている。

 

兄の異常な愛

本作では兄がマーティのことを溺愛し、「何があってもお前だけは守る」と兄弟愛以上の、何か狂気じみた感情を見せるが、これも先程の家族の不和と関係しているだろう。

 

マーティが長い間いじめられていたことを両親が知らなかったことからも、優しくて理解のある両親の「つもり」だったのだろうと思うと、マーティが兄に頼ったのことが納得できるが、兄もまた同じような教育を受けてきて、両親への不信感から反発し折り合いが悪くなったと推測でき、マーティの苦しみを理解すると同時に、自分のようになって欲しくないという思いから異常なまでに愛していたのではないだろうか。

 

そして、両親からの愛を感じずに、家族の中で自分だけ疎外感を感じたため、マーティを心の拠り所にしたのだろう。だとすれば、兄のような猟奇的殺人犯を生み出したのは、この両親でもあると捉えることもでき、ただのスプラッターホラーに収まらない深遠なテーマを含有したテーマ性の高い作品かもしれない。

5.個人的にマイナスだった点

耐性のない方には刺激的なグロ描写

スプラッター描写は良い点で挙げたが、同時に無駄にクオリティが高いので、スプラッター描写・グロ描写に耐性のない方は注意が必要だ。

チープすぎる映像

本作は映像がとにかくチープだ。
画質のような一見しただけでそれと分かるようなものから、カット割り、色合い、構図など全てがチープさにあふれているため、こちらも耐性がないと厳しいと感じるだろう。

 

スマートフォンはおろか携帯電話すら登場せず、VHSをレンタルする、会話に登場するのホラー映画が主に1980年代後半の作品ということからも、おそらく1990年代か2000年代初頭を時代設定にしていると思われ、チープな映像に説明を持たせているが、それを差し引いてもやはりチープさ・粗さが目立ってしまう。


6.総評

チープな映像と悪趣味なスプラッター描写が先行するが、その奥にはどの家庭にも共通し、誰もが経験したであろう普遍的なテーマが存在し、映画祭42冠(真偽不明)も伊達じゃない。


7.こぼれ話

  • 劇中作『Hedaless』も単体でBlu-ray化されているが、輸入盤のみ、かつプレミアがついて高額化しており、なぜか入手困難になっている。