ゆうの孤独のシアター

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『クワイエット・プレイス』音を出してはいけない極限下での怪物との戦い

音を出してはいけない状況下での緊迫感あふれるホラー映画『クワイエット・プレイス』の解説・考察をしていく。

 

1.作品概要

監督:ジョン・クラシンスキー

脚本:ブライアン・ウッズ、スコット・ベック、ジョン・クラシンスキー

製作:マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッドリー・フラー

製作国:アメリカ

配給:パラマウントピクチャーズ

時間:90分

公開:2018年4月6日

出演:エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー、ミリセント・シモンズ、ノア・ジューブ、ケイド・ウッドワード、レオン・ラッサムほか

 

2.あらすじ

音に反応して人間を襲う「何か」によって人類が滅亡の危機に瀕した世界で、「決して音を立ててはいけない」というルールを守り、生き延びている家族がいた。彼らは会話に手話を使い、歩くときは裸足で、道には砂を敷き詰め、静寂とともに暮らしていた。しかし、そんな一家を想像を絶する恐怖が襲う。(映画.comより引用)

 


3.主な受賞・選出

  • 第91回アカデミー賞 <音響編集賞>ノミネート
  • 第76回ゴールデングローブ賞 <最優秀作曲賞>ノミネート
  • 第72回英国アカデミー賞 <音響賞>ノミネート
  • 第24回放送映画批評家協会賞 <若手俳優賞、脚本賞>ノミネート

ほか


4.作品の見どころ・考察

引き込まれる導入部

本作は導入部が抜群に上手い。

荒廃した街に多数の行方不明者のスクラップ、荒らされた店内、家族が物音を立てずに手話で会話し、落とした物を必死でキャッチするなど異常性が際立っている。

 

そして一家で歩いている中、下の子のおもちゃが鳴り響く。母親は息を殺して嗚咽し、姉も愕然としている。全力で駆け寄る父親の目の前で子供は得体の知れない何かに連れ去られ、タイトルクレジットが表示される。

 

世界的な有事があり、彼らはその少ない生き残りだということを一瞬で理解させる演出だ。また、セリフや音楽をあえて排除し"音"をなくしたことで観客もまるでその場にいるような緊張感を味わえる導入部で物語にグッと引き込まれる。

 

絶望的状況

正体不明の怪物によって、秩序と文明が崩壊した世界を描いているが情報の出し方が絶妙だ。

 

父親リーの部屋には新聞のスクラップが無数にあり、「メキシコに隕石」「地下に潜れ!」「世界的な被害」「軍が敗北宣言」などと書かれており、断片的ではあるが経緯を推測することができる。

 

食事の際には音が出ないように葉っぱ(バナナリーフのような大きめの葉)を皿代わりに使用し素手で食べる、屋外を歩く時は裸足で音を立てずにそっと歩く、玩具は衣類で手作りなど、辛いサバイバル生活をしているのが伺える。

 

また、日没後に屋上で明かりを灯し、遠くに住む他の生存者らとお互いの安否確認を行っていたが、次第にその明かりの数も減っていく。これはもちろん、他の生存者が餌食になってしまったことを示唆している。

 

常に緊張感と恐怖の中で生活し、神経をすり減らしている様子が伝わり、観客も思わず息を潜めてしまうような演出の数々が光っている。長女のリーガンが聴覚障害を持ち、手話で会話しているという点も、他の家庭と比べて音を立てないという点に長けていたという設定も活きている。

 

親子の愛

弟を亡くしたのは自分のせいだと責めるリーガンに、父のリーは「リーガンのせいではない」と手話で言い聞かせているが、納得できずに悔恨の日々を送っていた。また、そのせいで両親から嫌われていると思い込み、両親に反発するようになる。

 

このあたりの心理描写は、思春期の微妙な感情を体現している。

 

終盤、リーは子供らを車に避難させて怪物と戦うが、長男が悲鳴をあげたため車が襲われてしまう。リーは力を振り絞って立ち上がり、覚悟を決めて斧を捨てる。手話と口の動きで「愛してる。ずっと愛してる。」と伝え、全力で叫び囮となる。

 

文字通り命を懸けて親が子を守り抜いたこの演出には、普遍的な家族の愛や絆が描かれており、非常に感動的なシーンになっている。本作では一貫して描かれているため、作品の大きな核として機能している。

 

なんとか逃げ延びて初めて地下室に入ると、そこには怪物の資料や補聴器の改良の研究資料が大量にあり、父親の偉大さを知ることとなる。

 

現実世界でも、両親や家族のありがたみ・凄さというのは失ってから気づくことが往々にしてあり、観客の心に響くようなシンプルだが効果的な演出だった。

5.個人的にマイナスだった点

お粗末すぎる設定

プロットは面白いのだが、ディティールはお粗末と言わざるを得ない。

まず、妻が妊娠していることが序盤で明かされるが、音を出してはいけない世界で避妊しないという選択をしたのは非現実的すぎるだろう。人類の未来のため、抵抗としてのメタファーと捉えることもできるが少し無理がある。

 

また、終始ご都合主義な演出が悪目立ちしている。

 

例えば「怪物の音に対しての反応」では、リーが息子を気晴らしに外に連れ出した際、「滝の轟音の近くなら音を出しても大丈夫」と2人で共に大声で叫ぶも怪物はやってこない。

さらに、帰りの森の中で妻を亡くした老人が絶望で自らも食べられるために大声を上げるが、親子は草をかき分けながら全力で逃げ、大きな音を立て続けたにも関わらず追ってくることすらなかった。

 

怪物が音を区別しているのか、反応できない音があるのか分からないが、ここの線引きが曖昧で全て主人公らに都合よく進行していく。

 

運の悪いことに2人の外出中に妻が破水し産気づいてしまう。さらに、釘を踏み抜いてしまい声を出したことから怪物たちが集まり出していた。

 

食料は十分にあるため外出する必要性がなく、臨月の妻と聴覚障害のある娘を残して、危険を冒して外出するのか不可解だったが案の定の展開に苦笑してしまった。このあたりの展開や構成も巧いとは言い難い。

 

怪物との戦い

妻は出産の痛みで大声を出すが、大量の打ち上げ花火でかき消した。ここも上記同様に曖昧だ。その後、地下室に逃げ込み、どのように対策するか注目したが、ベッドマットのようなものでドアをふさぐと事なきを得る。

 

終盤には子供たちが鉄板一枚で攻撃を防ぎ、ひょんなことから補聴器のハウリングを嫌がることが判明するが、人類が壊滅に近い被害を受けた敵に対して、花火と盾(マット、鉄板)、ハウリングで防げる都合のよさに思わず笑ってしまった。

 

このように怪物との戦いが描かれるたびに緊張感が薄れてしまっている点が残念だった。


6.総評

プロット自体は面白く、根幹にあるテーマもシンプルなため娯楽作品としては非常に分かりやすい。だが、上記のように粗末な設定やご都合主義が終始目立ち、劇中何度も「ひどいなぁ(苦笑)」となってしまうのは良くも悪くもハリウッド的。

 

声を出せない状況を「声を大にして発言できず、すぐに淘汰される現代社会」とする見方で作品自体がメタファーになっているという解釈もできるが、やはり不自然さが多く残る。

 

劇中の様子から、被害状況が逐一新聞で発表されていたみたいだが、新聞の印刷はかなり大きな音が出るがどうゆう理屈で被害にあわずに発行し続けることができたのだろうか。やはり大小様々な矛盾が多い。


7.こぼれ話

  • ホラー映画としてオープニング興行収入が5000万ドルを超えたが『パラノーマル・アクティビティ3』(2011)以来のだった。