ゆうの孤独のシアター

映画レビューを中心に映画関連のブログを書いていきます(当サイトはアフィリエイト広告を利用しています)

『ジュラシック・パーク』ジュラシック・パーク以前以後と評されるほど歴史を動かした大作

全世界での興行収入は9億1,200万ドルを超え、1993年の最高興行収入を記録するとともに当時の最高興行収入記録を塗り替えたメガヒット作。また、2018年には「文化的、歴史的、または美学的に重要」であるとして米国国立フィルム登録簿に保存されることが決定した、90年代を代表する『ジュラシック・パーク』の解説・考察をしていく。

 



 

 

1.作品概要

監督:スティーブン・スピルバーグ

脚本:マイケル・クライトン、デヴィッド・コープ

製作:キャスリーン・ケネディ、ジュラルド・R・モーレン

製作国:アメリカ

製作会社:ユニバーサル・ピクチャーズ、アンブリン・エンターテイメント

配給:ユニバーサル・ピクチャーズ

時間:127分

公開:1993年6月11日

出演:サム・ニール、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドプラム、リチャード・アッテンボローほか


2.あらすじ

 

生物学者グラントと恋人の古代植物学者サトラーは、大富豪ハモンドがコスタリカ沖の孤島に建設した施設に招待される。そこは、最新テクノロジーによってクローン再生された恐竜たちが生息する究極のテーマパークだった。グラントたちは同じく招待された数学者マルコムやハモンドの孫である2人の子どもたちと一緒に、コンピュータ制御された車に乗り込んで島内ツアーに出発。しかし思わぬトラブルが続発し、檻から解き放たれた恐竜たちが彼らに襲いかかる。(映画.comより引用)

3.主な受賞・選出

  • 第66回アカデミー賞 視覚効果賞、音響賞、音響効編集賞
  • 第47回英国アカデミー賞 特殊視覚効果賞
  • 第17回日本アカデミー賞 外国作品賞
  • ヒューゴー賞 映像部門
  • サターン賞 監督賞、脚本賞
  • ブルーリボン賞 外国作品賞
  • 米国国立フィルム登録簿

など多数


4.作品の見どころ・考察

恐竜の"再現"

本作の最大の魅力は何といっても、縦横無尽に動き回る恐竜たちだろう。
恐竜を映像化するにあたって高度な視覚効果技術が求められたが、ストップモーションアニメの第一人者のフィル・ティペット、特殊メイクのトップアーティストであるスタン・ウィンストン、ジョージ・ルーカスが設立したILMからはデニス・ミューレンと、各分野の最高の人材が揃った。(特に、ILMとスタン・ウィンストンは『ターミネーター2』(以下T2)の製作期間中から本作の準備を進めており、T2とほぼ同じスタッフ構成で撮影に臨んでいる)。

 

ウィンストンはT2で、T-1000の二つに割れる頭部、金属の銃剣などの映像に関わっており、そのノウハウを恐竜の手足や頭部、部分動作に活用している。ミューレンはT-1000が鉄格子をすり抜けるシーンや、変形・変身の全般に関わっており、本作ではブラキオサウルスの群れや、恐竜の全身動作そのものに活かし、両者なしでは本作の成功は無かったかもしれないほど多大な貢献をしている。

 

こうして出来上がった恐竜の映像は従来の着ぐるみや特殊メイクとは比較にならないほどの迫力を生み、観客のみならず、映画・映像関係者、恐竜の研究者や学者までもを驚愕させた。

 

スピルバーグ監督が「ナショナルジオグラフィックに撮られている象くらい本物に見えなければ、本作を作りたくなかった」と語っているほどリアリティーにはこだわったが、間違いなく劇中では恐竜を”再現”することに成功している。

 

CGによる新時代の到来

全編でCGが使用されているかと思ったが、CG使用シーンの合計時間は映画全体で7分にも満たないほどだったと知り驚いた。わずか7分だがCGパートだけで費用1,500万ドル、製作期間18か月と類を見ないほど大規模な撮影になったことからも、CG黎明期だった当時の撮影がいかに大変だったかが伺える。

 

映像関係者への影響は大きく、盟友ルーカスは本作のCGを見て技術的限界を理由に延期していた『スターウォーズ』新三部作の制作に取り掛かり、『ジュマンジ』や『AI』といった映像化不可能と言われた作品らが、次々と流れに乗る形で制作されていくことになる。莫大な費用と時間、最先端の技術を集結させた映像は映画界に新たな潮流を生み、CGによる新時代の幕開けを予感させるものだった。

 

徹底した科学考証

最新のCGや6トンもあるアニマトロニクス(生命を模したロボットを用いての撮影)が注目されるが、科学考証の部分にも非常に力を入れており、調査だけでも一年以上費やしているという徹底ぶりだ。

 

本作では恐竜のDNAから創造するが、現実世界でDNAやアミノ酸配列、塩基配列などを分子レベルで調べられるようになったことが非常に大きい。従来では膨大な量かつ新鮮なサンプルが必要だったが、バイオ技術の発達により、より少ないデータで検証することが現実的になったとされる。

 

また、これらはスーパーコンピューター3台をフル稼働して約30億の塩基対からなるDNA解析の結果から用いられたものであり、ここでも新たな技術を見事に活用している。ヒトの全遺伝子を解明する「ヒトゲノム計画」でさえ10年近く、絶滅した生物の化石標本を大量に集めて修復に必要なデータベースを揃えるだけで数十年はかかると言われていた撮影当時に、最新のテクノロジーの恩恵を最大限に活用し、映画界、ひいては一般社会にまで大きな影響を与えたのは脱帽する。

 

当時、恐竜の研究史はまだ170年ほどしかなく、全体の24%しか判明していなかったらしいが最新の古生物学を大胆に取り入れており、恐竜=爬虫類的、巨大で鈍重といった従来の世間のイメージを大きく覆したことも功績の一つだろう。

 

もちろん、本作のように数千年~数億年まえのDNAを採取するのは現在でも不可能だが、研究が進むと恐竜DNAの採取は夢では無いことを考えると、空想のフィクションだった恐竜が最新の科学技術で蘇る夢物語が現実味を帯びるという、ある種のロマンを我々に与えてくれた。

圧巻の恐怖描写

スピルバーグ監督といえばヒューマンドラマなどの温かい映画のイメージもあるが、実はホラー映画や恐怖描写の描き方がピカイチだと私は思っている。

 

本作でも恐怖描写は遺憾なく発揮されており、作品にジェットコースターのようなスリルを生み出している。恐竜と人間の目を交互に写す冒頭のシーンから始まり、獲物を捉えた際の縮む瞳孔をアップで写すなど随所でみられるが、中でもT-REXが初めて姿を見せるシーンは圧巻だ。

 

まず大地が揺れ、コップの水が振動している。囮のヤギが消えているのを見せた次の瞬間には、落ちてくる車体の一部とヤギの血の跡。直接的な描写はないが、あえて見せずに想像させることが怖さに繋がること熟知した上での演出は憎いほどに巧い。また、追ってくるT-REXをミラー越しに見せる(『激突!』)、アーノルドの腕だけ(『ジョーズ』)など、過去の自身の作品にもあるような演出を本作でも取り入れており、そのどれもが効果的だ。

 

また、「最新の技術を絶滅した太古の生物の復元に使用する」「自らが生み出した生物に死を操られる」などの皮肉が効いたプロットも特徴的で、ここにも映像以外での恐怖演出が光っている。


5.個人的にマイナスだった点

過剰な音楽

本作も盟友ジョン・ウィリアムズが音楽を担当しているが、過剰ではないかと感じた。

 

島が見えた瞬間やラストで流れる有名なメインテーマなどはタイミングも完璧で高揚感が高まり、全体的には作品作りに大きく貢献しているのは事実だが、音楽が流れていないシーンを探すのが難しいほど常に音楽が流れている。

 

静寂さが恐怖に繋がるような場面でも音楽があり、「ここは感動シーン」「ここは怖いシーン」と大げさな音楽で観客の感情を誘導しているのが明白で途中で嫌気が差した。ハリウッドの娯楽超大作らしいと言えばらしいのだが、食傷気味になってしまったのも否めない。

 

6.総評

スピルバーグ監督は「科学と幻想と現実が融合した説得力のある映像を目標とした」と後に語っているが、その目標は十二分に達成されている。そして、このバランスが抜群なのだ。作品自体は幻想に包まれているが、その実は徹底した科学考証と最新の科学技術を用いた映像技術が核にしっかりとあるため、SF・ファンタジー映画でありながら非常に骨太な印象を受け、娯楽映画としての完成度が群を抜いている点も感心させられる。

 

「人間は神の真似事をしたがるが、生物を創造すべきではなかった」とサム・ニール演じるグラント博士は警鐘を鳴らす。登場人物にそのまま言わせるのは50年代のB級映画のようで好きではないが、本作の真意はここにある。人類の進歩・発展には、人間が持つ飽くなき探求心や好奇心が大きく関係してきたが、解明できない・謎のままだからこそ無限のアプローチができ、人々を魅了しているのではないだろうか。そこを実現した際に人間が何を思い、何を行うのかと考えさせられる。

 

現在ではクローン技術の発達により、クローン人間の創造は技術面ではクリアしているという話も耳に挟むが、実現しない背景にはやはり倫理的部分がクリアできないからだろう。もし、倫理的観点を無視し、本作のように新たに創造されることを考えるだけでも恐ろしいが、そういった気持ちにさせられるのも映像の説得力が起因しており、改めて本作の与える影響力や、映像が持つ力を思い知らされた。


7.こぼれ話

  • 数々の映画のオマージュシーンが隠されており探すのも楽しい。
  • ハリソン・フォード、ショーン・コネリー、ウィリアム・ハートなどが候補に挙がっていた。
  • 本作で登場する恐竜はT-REXをはじめとしてほとんどがジュラ紀(約1億9960万年前~約1億4500万年前)ではなく、白亜紀(約1億4500万年前~6500万年前)の時代に生息していた恐竜。それにも関わらずタイトルをジュラシックにした理由は、響きがいいから。
  • その後のシリーズや関連グッズ、アトラクションなども含めたフランチャイズシリーズは最低でも総額5億ドル以上の売り上げを記録し、映画史の中でもトップクラスのドル箱コンテンツとなっている。