英国映画協会が選ぶ「スクリューボール・コメディの代表作10本」に選出され、1993年にアメリカ国立フィルム登録簿に登録されたホークス監督初期の名作『ヒズ・ガール・フライデー』の解説・考察をしていく。
1.作品概要
監督:ハワード・ホークス
脚本:チャールズ・レデラー
製作:ハワード・ホークス
製作国:アメリカ
配給:コロンビアピクチャーズ
時間:92分
公開:1940年1月11日
出演:ケーリー・グラント、ロザリンド・ラッセル、ラルフ・ベラミー、アルマ・クルーガーほか
2.あらすじ
敏腕女性記者ヒルディは上司であり元夫でもあるウォルターに堅実な保険業者ブルースと結婚すると報告する。ヒルディに未練を残すウォルターは、最後の仕事にと死刑が確定している警官殺しの冤罪事件の取材を無理矢理引き受けさせ、あの手この手で結婚を妨害しようとするが…。(映画.comより引用)
3.主な受賞・選出
- 1993年 アメリカ国立フィルム登録簿登録
4.作品の見どころ・考察
漫才のようなテンポの速い会話
スクリューボール・コメディとは1930年代から1940年代にかけてハリウッドで流行したコメディ映画のサブジャンルで、自由奔放な登場人物、テンポが良く洒落っ気にあふれる会話、予測不能な展開などの内容を指す場合が多い。
そのスクリューボール・コメディ作品群のなかでも、本作は特に会話のテンポが非常に速い。一場面だけではなく、初めから終わりまで終始喋り続けており、その様子は漫才を見ているようで常に笑いのシーンが用意されている。
また、内容もウェットに富んでいて圧倒的なセリフの量の割には嫌悪感は全くなく、脚本の妙を存分に味わうことができる。
スピーディな展開・演出
演出のテンポも会話同様にスピーディだ。
登場人物らの関係性や人物像、各々が置かれた状況、展開や演出の意図を理解させるまでわずか20分ほどで、その無駄が一切ない演出法により映画自体をも加速させており、会話がさらに速いものに感じられる。
80年以上前の作品にも関わらず、今のハリウッド映画にはない洗練さを感じるほど小気味のいい演出が繰り出される。
社会風刺や皮肉
勢いに任せたコメディと思われるが、意外と社会派な側面を併せ持っている点も特徴的だ。
劇中で殺人犯が逮捕された後、ある女性が記者室に入ってくるシーンでは作品の雰囲気が一変する。彼女は事件の前日に犯人とあっており、失業し失意のどん底にいた彼を優しさから部屋に泊まらせたというのだが、記者たちはそれを面白おかしく記事にしたようだ。
彼女は、恋人でもなく男女の関係もないとし、犯罪を犯すようなひとではないと憤慨しながら抗議するが、記者たちは聞く耳を持たずに冷たくあしらうだけだ。記者や新聞そのものを糾弾しながら連行されていくが、報道や新聞の在り方に大きくメスを入れる素晴らしいシーンだ。
冒頭で「新聞は暗黒時代を迎え、報道のためなら殺人以外は何でも許された」というテロップが表示されるが、正しくそのことを批判しており、本質をとらえている。
ほかにも、強引な手法でスクープを連発する描写や、警官が殺害された事件を無実の罪を着せて早々に死刑を執行し、次の選挙へのアピールに利用する政治家などシリアスな場面が作品に緩急を生んでいる。
5.個人的にマイナスだった点
殺人犯の脱獄と記者室での攻防
終盤、殺人犯の脱獄し大捕り物が展開され、なだれ込んだ記者室で攻防が広げられるが、さすがに失速した感は否めない。
漫才からコントに切り替わったとして楽しむことができるが、最後まで会話のみで構成してほしいと私は感じた。
6.総評
全編通してセリフの量に圧倒されるが、笑わせ続ける脚本と役者たちの器用さが際立っていた。一定の時間内で読めるように要約になっている字幕でこれほど喋っているということは、オリジナルではこれ以上の情報量があるということだから驚異的だ。
会話の内容やジョークのバリエーションも多種多様で、飽きさせない工夫がなされているため最後まで笑い続けることができる。優れた脚本と巧みな演出力を味わえる、スクリューボール・コメディのお手本のような作品だ。
7.こぼれ話
- ヒズ・ガール・フライデーとは、「彼のお気に入りの娘」といった意味合い。
- 戯曲『フロント・ページ』の映画化で、『犯罪都市』に次いで2回目の映画化。