ゆうの孤独のシアター

映画レビューを中心に映画関連のブログを書いていきます(当サイトはアフィリエイト広告を利用しています)

『バベットの晩餐会』秋の夜長に見たくなる静謐で情感豊かな一品

20世紀デンマークを代表する作家カレン・ブリクセンの同名小説を映画化し、1987年のアカデミー賞最優秀外国語映画賞をはじめ、世界各国の映画賞を受賞するなどガブリエル・アクセル監督の代表作ともなった『バベットの晩餐会』の解説・考察をしていく。

 

 

 

1.作品概要

監督:ガブリエル・アクセル

脚本:ガブリエル・アクセル

製作:ボー・クリステンセン

製作国:デンマーク

配給:シネセゾン

時間:102分

公開:1987年8月28日

出演:ステファーヌ・オードラン、ビルギッテ・フェダースピール、ボディル・キュア、ヴィーベケ・ハストルプほか


2.あらすじ

19世紀後半、デンマーク辺境の小さな漁村に質素な生活を送る初老を迎えたプロテスタントの姉妹がいた。そこにパリコミューンで家族を失ったフランス人女性バベットがやってくる。その後、彼女は家政婦として長年姉妹に仕えるが、宝くじで大金を手にいれると、村人のために晩餐会を開きたいと申し出る。(映画.comより引用)

3.主な受賞・選出

  • 第60回アカデミー賞 外国語映画賞
  • 第42回英国アカデミー賞
    <受賞>
    外国語映画賞

    <ノミネート>
    主演女優賞(ステファーヌ・オードラン)
    監督賞(ガブリエル・アクセル)
    脚色賞(ガブリエル・アクセル)
    撮影賞(ヘニング・クリスチャンセン)
    ほか多数

 

4.作品の見どころ・考察

脚色の妙

原作はシニカルでブラックな文体らしいが本作では抑えめで、原作の雰囲気を残しながら心温まる物語に脚色されている。

 

特に、西洋文化の上流階級と貧困層の対比、プロテスタント(ルター派)とカトリックの宗教観や人生観の違いなどは原作のテーマを色濃く反映されており宗教色の強い作風になっているが、それらを見事に表現した映像の美しさも本作の魅力の一つだ。

 

重苦しい空と雲、吹きすさぶ寒風、白波が立った荒い波などは彼女らが置かれた過酷な環境や苦しい心情を表しているが、若き姉妹のシーンでは露光を多くして明るい画面を作り、教会にも光芒が差し込む。シンプルではあるが対比が効果的で、慈悲深ささえも感じられる。

 

絵画のような画作り

均整の取れた映像の画面作り、構図も素晴らしい。

 

左右対称や相似を多用した点や、姉妹や神父である父親を画面の中心にした場面が多いことからも、西洋の古典絵画、特に宗教画からヒントを得ていることは明白だ。

 

また、バベットが夕日の中で佇むシーンの美しさは目を見張る物があり、彩り豊かな最後の料理シーンも寒色が多く色味に乏しい場面が大半を占める作品の中でアクセントになっている。これらの計算しつくされた構図は作品に格調高さをもたらし、作品の寓話性を高めるのに大きく貢献している。映像媒体である映画だからこその表現であり、原作の世界観を余すことなく具現化できているのではないだろうか。

 

デンマークとフランス

本作ではデンマークが舞台だったが、原作ではさらに北のノルウェーだった。
より寒さの厳しい土地からデンマークに変更したのは、監督がデンマーク出身で幼少期から十代後半までパリで過ごしたという事が大きな要因だと思われる。

 

バベットが命からがらパリから逃れてきた理由は1871年の普仏戦争後のパリ・コミューンに起因する。そして、そこから先立つ1864年にデンマークはプロイセンに敗北し(デンマーク戦争)多くの命と領土を失っており、そこに共通点を見出し、脚色した点も評価できる。

 

これによって、厳しい時代を生き抜いた両国からの視線を自然と映画に落とし込むことができており、ただのグルメ映画に留まらない、深みのある作品に仕上がっている。


5.個人的にマイナスだった点

何も起こらないストーリー

映像や脚色は見事だが、物語自体は評価が分かれるだろう。
人生とは何かを深く考えさせられる部分も多いが、説教臭さや押し付けがしさを感じる場面も多いため辟易するかもしれない。

 

また、物語は大きな起伏がなく終始穏やかな展開が続くため、物語性を求める方には退屈に感じられるだろう。

 

極端な人物描写

敬虔なクリスチャンであることや慎ましい生活を長年続けたこと、宗教観の違いなどから、外界から来たバベットに不信感を抱くまでは理解できるが、バベットの料理に毒殺される妄想を抱きながら恐る恐る口にする、味わわずに無言で食べ続けるなど極端な描写が目立つ。

 

妄想のシーンではサイケデリックな映像が唐突に挿入されるなど、作品のテイストに合わない演出もあり過剰演出に感じた。

 

また、本作の狂言回しであるローレンスが終盤で突如としてグルメ漫画のように蘊蓄を披露しながら舌鼓を打つと村人たちが一転して笑顔で料理を楽しみだす不自然さも、もはやご愛敬か。

 

6.総評

80年代後半、世界的な好景気、日本ではバブル景気の狂乱の中で、静謐で慈愛に満ちた本作は一際異彩を放っており、唯一無二の存在感で地位を確立している。

 

芸術的な映像や芯に迫る脚本は深く胸に残り、単なるグルメ映画とは一線を画している。派手さはないが、ワインやチーズを片手に見たくなるような上品な作品だ。